悪役教師は、平和な学校生活を送りたい

新たなる壁

 リュディガーの協力もあり、エルヴィンを含めた六人の生徒全員と教育相談をすることができた。

 そうして皆と話した内容を踏まえて、ディアナは教育計画を改めて練り直すことにした。

(一人一人の個性を生かすためには、それぞれに適した計画を組まないといけない……)

 学力も性格もまちまちの彼らだが、何十人分の個人計画を立てなければならないわけではない。六人一人一人に適した学習目標を設定すればきっと、よくなるはずだ。

 例えばツェツィーリエにはコントロール力という大きな弱点があるが、それについてはおっとりとしたエーリカから学べるものがある。たまには衝突もするがツェツィーリエとエーリカはよく一緒にいるので、お互いの長所を学べるだろう。

(ライトマイヤー君も、「辛くなったらその場から離れていい」と言ったら気分が楽になったみたい。でも、さすがに試験中に逃げ出したらいけないから、ある程度は割り切れるようにしないと……)

 職員室のデスクに向かって指導計画案を書いていると、コン、と小さな音がした。

「……最近調子がよさそうだね、イステル先生」
「アルノルト先生、お疲れ様です」

 顔を上げると、白衣姿のフェルディナントの姿が。ディアナのデスクの隅に湯気の立つマグカップが置かれており、フェルディナントが淹れてくれた紅茶だと分かった。

「例の……何でしたっけ? 教育相談、というのを経てから、君の顔色もよくなったようでよかったよ」
「ありがとうございます。これも全て、アルノルト先生のおかげです」
「いや、僕は君の案に賛同して、ちょろっと上の方にもお願いをしたくらいだ」
「それがありがたいのです! 私一人では、実行することもできなかったでしょうし……本当に、ありがとうございます」

 礼を言って紅茶のマグカップを取ろうとする――と、ディアナの右手にそっとフェルディナントの左手が被せられた。

(……ん?)

 右手が成人男性の手にすっぽりと覆われて目を白黒させていると、くすっと笑う気配がした。
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