悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 思わず、声に出てしまった。
 隣でフェルディナントが、「やめなよ」と小声で諭してくるが――ここで引きたくはない。

 リュディガーはディアナの手伝いをしてくれるし、前期に起きた事件も冤罪でありながら、家族のために自分一人が犠牲になることを選んだ。

 ツェツィーリエは、自分の失敗によって家族や仲間たちを傷つけることを何よりも恐れている。あの強気な態度も全ては、誰かを守るためにあるのだ。

 ルッツは過去のトラウマがありながらも、ディアナと一緒に工夫をして困難を乗り越えようとしている。昨日の授業では、「今日は僕、一度も逃げませんでした!」と嬉々として報告してくれた。

 レーネの体質については皆も理解してくれて、食事の量や補食の菓子をバランスよく取ることで、自分の体とうまく付き合っている。元気なときの彼女はとても頼りになるし、彼女のコンディションが良好であるのが一番だ。

 エーリカも、「これが苦手なの」ということを周りにきちんと伝え、分からないところは粘り強く復習するようにしている。優しい彼女なので、皆も自然と近くに行ってお喋りをしたくなってしまう。

 そして、エルヴィン。まだ彼が授業に来ることはないが、彼には彼の事情があると分かった。そしてその根底にあるのは、従弟との関係をこれ以上悪化させないためという理由だとも。

 皆、少しずつ努力している。苦手を克服しようと前を向いている。

 それなのに。

「あの子たちは、恥なんかじゃない。補講クラスを掃きだめだなんて、言わないでください!」

 その叫びに、職員室内がしんと静まりかえった。
 目の前の校長は顔を赤くしてぷるぷる震えているし、フェルディナントも無言で頭を抱えている。

 やってしまった、と分かっている。
 採用されて一ヶ月少しの自分が校長に刃向かうなんて、とんでもないことだ。

(でも……前言撤回したりはしない)

 生徒たちの努力を、足蹴にされたくないから。
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