悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「ヒカリン」の世界には、火、氷、雷、土、風、聖、光、闇の八種類の魔法属性が存在する。

 多くの人間は出生時にいずれかの祝福を受けて、その属性の魔法を扱えるようになる。これは遺伝の要素も強いが、両親とは全く違う属性を持つこともあるし、まれに複数属性を持つこともあるので、謎を解明するには至っていないという。

「ヒカリン」の主人公は、家族で商売を営んでいる。細々と暮らしていた彼女だが十五歳の秋に予言者を名乗る謎の人物から、光属性持ちであることを告げられる。
 光属性持ちはレアなので校長にも大歓迎され、急ぎスートニエ魔法学校に入学することになるのだった。

(でも、プレイしなかった攻略キャラルートもいるし、そもそもプレイしていたのは死ぬ何年も前の話だし……イベントスキップばかりしたから、あまり覚えていない……)

 それでも。
 荷物の入った鞄を手にスートニエ魔法学校の校門前に立つと、「ああ、こんなスチルだったな」と過去の記憶がよみがえってきた。

 校門前の風景は、イベントなどでもよく見られた。なかなかの解像度で美しいイラストだったが、実際に見ると画面越しでは分からない建物の奥行きや立体感、荘厳な空気が肌で感じられる。

(不思議。私は本当に、「ヒカリン」の世界にいるんだ……)

 男爵家から連れてきた従者と侍女を伴い、ディアナは校内に足を踏み入れる。
 どうやら現在は前期試験後の秋休み期間中らしく、城か何かと思うほど立派な校舎内には人気がなく、しんとしていた。

 歩きながら、「あ、ここゲームで見た」「この背景、イベント報酬にあったっけ」と思い出していると、少しだけ胸がときめいてきた。

 だが――
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