悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 校長はしばし沈黙していたが、時々「この」とか「よくも」という言葉が漏れ聞こえていた。
 だがやがて我に返ったようで咳払いをすると、じろりとディアナをにらみつけてきた。

「……よくもまあ、そんな口がきけるものだ! 速攻クビになりたいようだな!」
「校長、それはさすがに同意しかねます」

 まさかのクビ発言にディアナはビクッと震えたが、すぐさま副校長が反論した。

「ディアナ・イステルに退職を命じる権利が校長にあることは、承知しております。しかし、今後のことを考えると今ここで彼女を退職させて新たな教師を探すより、ひとまず彼女に半年間の採用を継続させる方が得策かと」
「新規採用者は、おまえが探せばいいだろう!」
「もちろんそうなれば、私も候補を探します。が……新任者と補講クラスの生徒の折り合いが悪く、万が一にでも六人全員が退学処分となれば……さすがに、『学校のあり方そのもの』に疑念を抱く者も出てくるのではないでしょうか」

 ひやひやしながら二人のやり取りを聞いていたディアナは、ぎゅっとスカートを掴んだ。

(回りくどいけれど……副校長先生は、私を庇ってくださっている)

 やはり校長や副校長としては、補講クラスの生徒全員が進学できない――つまり生徒のうち一割は一年次で退学処分というのは、外聞が悪いことがあるのだろう。

 副校長の指摘に、校長はぐっと言葉に詰まったようだ。
 どうもこの校長は見栄や自分の評価が何よりも大好きらしいので、生徒が退学になるのはともかく、それによって自分の評価に傷が付くのは避けたいのだろう。

 校長はしばらくの間考え込んでいたようだが、やがてディアナを見てきた。

「……そういうことなら、分かった。補講クラスの生徒は、おまえが皆面倒を見ろ」
「は――」
「しかし、だ。……落ちこぼれを落ちこぼれと言われたくないのなら、おまえが担任教師として生徒たちをうまく指導すればいい話。――ということで」

 校長はずいっとディアナに詰め寄ると、右手の指全てと左手人差し指で、「六」の数字を示した。

「おまえが掃きだ――補講クラスの生徒六人全員を進級させたならば、補講クラスのあり方について再考してやろうではないか」
「さ、再考……?」
「ああ。おまえは、あの連中が落ちこぼれではないと言うのだろう? 卒業しても我が校の恥にならないと言うのだろう? では、それを証明してみせろ。おまえが六人全員を進級させられたなら、連中にきちんと実力があったという証左になる。そうでなければ、連中の実力はそれまでだったということだ」
「校長先生! それはさすがに、あまりにも酷です!」

 声を上げたのは、フェルディナント。
 彼は立ち上がるとディアナを庇うように、校長との間に立った。
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