悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「確かに、補講クラスの生徒たちには可能性が十分にあるでしょうが……イステル先生の手腕だけでどうにかなるわけではありません!」
「ああ、分かっているとも。……ディアナ・イステル、おまえは何も無理をして六人全員を進級させずともよい。前にも言った、三人以上進級で正式採用の約束はまだ健在だ。おまえにはそちらの方が大切だろう?」

 そこでディアナも校長の意図が分かり、さっと全身の血が引いた。

 つまり校長は、ディアナを揺さぶっているのだ。
 六人全員進級は夢のまた夢だから、無理に目指さなくてもいい。補講クラスのあり方が再考されても、ディアナ本人に利益はあまりない。

 ――ディアナの正式採用だけを狙うのなら、三人を見捨ててもいいのだ、と。

(……なんて手を……!)

「そんなの……!」
「おや、いいのか? おまえがうまくやれば、来年から補講クラスそのものを撤廃することも考えられるのだが?」

 ニヤニヤ笑いながら言われて、ディアナの胸の奥が揺れた。

 ――それはつまり、「掃きだめ」や「落ちこぼれ」と皆の嘲笑の的になる生徒がいなくなる、ということ。

 補講クラスに入れられたというだけで他の同級生からも冷めた目で見られる、とお茶会で教えてくれたのはエーリカだった。
「廊下ですれ違ったときとかにも、言われるのよ。『あれが落ちこぼれクラスに入れられたやつらか』ってね」と、彼女は寂しそうに笑って言っていた。

 今の補講クラスは進級が難しい生徒を助けるための存在ではなくて、同級生から指を指されてもいい生徒を集めた場所のようになっている。

 それが、なくなるのなら。

 ディアナが何も言わないでいると、校長はふんと鼻を鳴らした。

「……ということだ。この場にいる全ての教員が証言者になるから、私は約束は違えないぞ。だがもちろんのこと、この条件については生徒に言ってはならない。いいな?」
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