悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 教師の説明が終わったらしく、生徒たちが訓練場に散らばる。どうやら一対一の魔法剣練習試合をするようで、向き合った生徒たちが腰から提げた剣を抜き、刀身に自分の魔力を込めていた。

 なお、火、氷、雷、土、風、光、闇の七属性はともかく、癒やし専門である聖属性の生徒はこの練習には参加できない。
 むしろ彼らにとっては、練習試合で負傷した同級生の治療をする方が訓練になるようなので、フェルディナントも彼らに指示を出したりするという。

「おっ、あそこで早速、エルヴィン・シュナイト君が構えているよ」
「……あ、本当ですね」

 思わずその場で背伸びをすると、フェルディナントが「もっと近くに行こうよ」と誘ってくれたので、二人で訓練場に近づいた。

 エルヴィンと対峙しているのは、背の高い男子生徒だった。

(えーっと……あの子って確か、同級生に対する態度がちょっとよくないって聞いたことがあるような)

 職員室で聞いた内容を思い出そうとしていると、エルヴィンの対戦相手は振り返ってディアナを見ると、ケケッと笑った。

「おーい、サボり魔! おまえの担任が見てんぞ!」
「……」
「格好いいところ見せたいんだろう? だったら俺を倒してみせろよ! 逃げてばかりの臆病野郎にできるならな!」
「……うっさいな」
「あ?」
「あんたに言われなくても、先生の姿は見えている。いちいち馬鹿でかい声を上げるな」

(お、おおー……。シュナイト君、言われっぱなしじゃないのね……)

 てっきり無視を貫くと思いきや、エルヴィンはほどほどに言い返していた。
 無論それで黙る相手ではなく、むしろカチンときたように幅広の剣を構えた。

 スートニエ魔法学校では入学時に授業用の魔法剣を与えられるが、生徒の身長体重、運動神経などにより剣の長さや重さを調節する。
 補講クラスだと、大柄で筋肉もあるリュディガーは刃も分厚い大剣だったが、ツェツィーリエ、ルッツ、エーリカは細身で刀身も短い剣を持っている。レーネは騎士の娘だからか剣の扱いは慣れているようで、男子生徒用の標準剣を使っていたはずだ。

 この対戦相手もリュディガーのものと同じくらい大きな剣を持っていて、対するエルヴィンの剣はレーネのものと同じだ。相手もその剣を見て鼻で笑ったのが分かった。

(頑張って、シュナイト君……!)

「では、全員位置について……始め!」

 教師の声と共に、彼が頭上に掲げた魔法剣からぱっと火花が立ち上った。
 それを合図に、あちこちで練習試合が始まる。ある者はすぐさま攻撃を仕掛け、ある者は相手の攻撃を受け止めるつもりで剣を構える。
< 49 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop