悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「それでは、どういうことですか。こんな大事な時期に学校を離れるなんて……」
「すみません。でも、どうしても試験までに行きたいところがあるんです」

 エルヴィンはうつむき気味だが、目は真っ直ぐディアナを見ていた。

「前日までには用事を終わらせて、当日には間に合うように帰ってきます。ですので……サインをお願いします」

 エルヴィンは、真剣だ。
 ディアナは目をすがめて許可書を見て、ゆっくりと首を横に振った。

「……。……行かせたくは、ありません」
「先生……」
「どうしても、行く必要があるのですか? 試験後ではなくて、前じゃないといけないのですか?」
「はい。……むしろ、試験のために行っておきたいんです」

 ためらいがちだが、自分の意見を曲げるつもりはないようだ。

(試験のために……どうしてもやりたいというのね)

 ディアナはしばし、外出許可書とエルヴィンの顔を見比べ――そして、反対することを諦めた。

「……分かりました。サインしましょう」
「……ありがとうございます」
「でも、約束してください。必ず、試験に間に合うようにすること。それと……」
「はい」
「……無事に、帰ってきてくださいね」

 ディアナが言うと、エルヴィンは目を丸くしてしばしぽかんとしているようだったが、やがて目線を逸らして頷いた。
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