悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 十二月十七日は、雲一つない晴天だった。
 だが前日から降っていた雪は解けることなく、しかも晴れているためか朝からかなり冷え込んだ。

 六日間ずっと試験の監督を務める先生たちは、森にある宿舎で休むことができる。
 しかしディアナは補講クラス専門なので彼らと一緒に真冬の森に向かって歩き、夜になるまでに学校に帰ることになっていた。

 そして、皆で準備をして校舎棟の玄関に向かったのだが――

「何をしておりますのよ、あのサボり魔は!」

 全身もこもこ防寒着姿のツェツィーリエが叫ぶが、さすがに今回は他の皆もディアナも何も言えなかった。

(まさか、帰ってこないなんて……)

 試験日までには帰ると約束したエルヴィンが、今朝になっても戻ってこなかった。念のために学校の事務部にも確認したが、遅延報告なども上がっていないという。

 ツェツィーリエは朝からご機嫌斜めで、さしものリュディガーも険しい顔で「どういうことだ」とディアナに詰め寄ってきた。

「すみません、みなさん。前日には帰ってくると聞いていたので……」
「……先生を責めたいわけじゃねぇよ。ったく、あの馬鹿はどこで何をしてるんだ……!」
「帰ってこないのもそうだけど、無事なのかも心配だわ……」

 エーリカのつぶやきに、ルッツも頷いた。

「そう、だよね。雪も積もっているし、どこかで足止めを食らっているのかもしれないよ……」
「心配よね。でも、帰ってきてくれないと私たちも困るし……」

 皆口々に言うが、試験を五人で受けなければならないという不安だけでなく、エルヴィンが無事でいるかも分からないというのが気になるようだ。

(でも、不安でいると試験にも影響を及ぼす……)

 ディアナの考えに気づいたようで、リーダー役を請け負っているリュディガーがパンパンと手を打った。

「おら、悩むのはそこまでだ! あの馬鹿が何をしているのかは分からねぇけど、オレたちは試験に取り組むだけだろ!」
「……それもそうだよね。ここで待っていても、仕方ないし……」
「皆で不合格になるわけにはいきませんものね。……こうなったら五人でも合格してみせましょう! ねぇ、先生?」
「……そう、ですね」

 ひとまずは、リュディガーとツェツィーリエの言う通りだ。

 このままだとエルヴィンは試験不参加で不合格になるが、彼一人のために他の五人を犠牲にしてはいけないと……ディアナも分かっていた。

(彼が帰ってこないことは、学校には伝えているし……まずは、目の前のことに集中しないと)

「……行きましょう。もしかするとシュナイト君も、遅れて到着するかもしれませんからね」
「そうだといいのですけれど、途中参加者などに手柄はあげませんからね!」

 ツェツィーリエが強気に言うが……きっと、彼女なりにこの場を盛り上げようとしてくれたのだろう。

 まもなく時間になったので、ディアナたちは雪で白くけぶる校庭へと足を進めた。
< 55 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop