悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
郊外にある森までは、道案内係がいたので問題なく進めた。
「ここが試験場所です」
「……なんというか。森、ですね」
レーネのつぶやきに、他の四人も頷いて同意を示した。
ディアナは事前研修の際にフェルディナントたちに連れられて一度訪れているのだが、確かに見るからに森という場所だ。
一応獣道はあって内部には休憩用の小屋などもあるが、雪を被った針葉樹がびっしりと生い茂る場所は、王都の中で育った者からすると異様な感じがするだろう。
(私は前世の学校行事で山に行ったりしたから慣れているけれど、この学校には貴族の子女も多いからね……)
案の定、高位貴族であるツェツィーリエは生い茂る森を見て顔を引きつらせていたし、ルッツも「暗くて怖そう……」とリュディガーの背中に隠れている。エーリカも不安そうな顔をしているので、平気なのはリュディガーとレーネくらいのようだ。
「ああ、来たか。補講クラスだな」
「はい、よろしくお願いします」
森の入り口に張ったテントの前にいたのは、ツェツィーリエほどではないが厚着をした男性だった。
彼はこの森の管理者で、毎年冬に試験を行う際に世話になっているという。
「既に魔物の準備はしている。……ああ、そうだ。一応地面はならしているが、ちょっとでこぼこした場所があるかもしれない。試験する分には問題ないし、あまり気にするなよ」
「分かりました」
「……あのー。なんででこぼこしてるんですか?」
ディアナの背後にいたレーネが尋ねると、管理者の男性は森の方を顎で示した。
「午前中に試験をしたグループが、かなり派手に戦ってな。……そういや何人か血まみれになっていたから、ちょっとくらいは痕が残っているかもな」
「ひっ、ひぃ……!?」
「おい、ルッツ。気絶するのは早いだろう」
話を聞いて青くなったルッツをリュディガーが励ましているが、レーネも余計なことを聞くのではなかったと後悔しているようで顔が青白い。
たとえ血まみれになっても、フェルディナントたちが手当をしてくれる。
……そうと分かっていても、怖いものは怖いだろう。
「……さあ、行きましょう」
ディアナは五人を送り出して――そっと、管理者に尋ねた。
「その。もしかして、ですが……赤金色の髪の男子生徒が先に来たりしていませんか?」
「いや、来ていないな。……もしかして一人足りないのか?」
「ええ、昨日までには学校に帰るということで外出許可を出したのですが……」
「そりゃあ、あんたが迂闊だったな。……もしかすると尻尾を巻いて逃げたのかもしれない」
男性が面倒くさそうに言ったため、思わず言い返しそうになったが――「あんたが迂闊だった」が胸にグサッと刺さったので、反論は呑み込んだ。
「……いえ、私はあの子を信じています。遅れて来た場合は、通してあげてください」
「分かった分かった。……毎年いるんだよなぁ、直前になって逃げるやつ」
あくび混じりに言われたディアナはそれ以上何も言わず、お辞儀をしてから生徒たちの後を追った。
「ここが試験場所です」
「……なんというか。森、ですね」
レーネのつぶやきに、他の四人も頷いて同意を示した。
ディアナは事前研修の際にフェルディナントたちに連れられて一度訪れているのだが、確かに見るからに森という場所だ。
一応獣道はあって内部には休憩用の小屋などもあるが、雪を被った針葉樹がびっしりと生い茂る場所は、王都の中で育った者からすると異様な感じがするだろう。
(私は前世の学校行事で山に行ったりしたから慣れているけれど、この学校には貴族の子女も多いからね……)
案の定、高位貴族であるツェツィーリエは生い茂る森を見て顔を引きつらせていたし、ルッツも「暗くて怖そう……」とリュディガーの背中に隠れている。エーリカも不安そうな顔をしているので、平気なのはリュディガーとレーネくらいのようだ。
「ああ、来たか。補講クラスだな」
「はい、よろしくお願いします」
森の入り口に張ったテントの前にいたのは、ツェツィーリエほどではないが厚着をした男性だった。
彼はこの森の管理者で、毎年冬に試験を行う際に世話になっているという。
「既に魔物の準備はしている。……ああ、そうだ。一応地面はならしているが、ちょっとでこぼこした場所があるかもしれない。試験する分には問題ないし、あまり気にするなよ」
「分かりました」
「……あのー。なんででこぼこしてるんですか?」
ディアナの背後にいたレーネが尋ねると、管理者の男性は森の方を顎で示した。
「午前中に試験をしたグループが、かなり派手に戦ってな。……そういや何人か血まみれになっていたから、ちょっとくらいは痕が残っているかもな」
「ひっ、ひぃ……!?」
「おい、ルッツ。気絶するのは早いだろう」
話を聞いて青くなったルッツをリュディガーが励ましているが、レーネも余計なことを聞くのではなかったと後悔しているようで顔が青白い。
たとえ血まみれになっても、フェルディナントたちが手当をしてくれる。
……そうと分かっていても、怖いものは怖いだろう。
「……さあ、行きましょう」
ディアナは五人を送り出して――そっと、管理者に尋ねた。
「その。もしかして、ですが……赤金色の髪の男子生徒が先に来たりしていませんか?」
「いや、来ていないな。……もしかして一人足りないのか?」
「ええ、昨日までには学校に帰るということで外出許可を出したのですが……」
「そりゃあ、あんたが迂闊だったな。……もしかすると尻尾を巻いて逃げたのかもしれない」
男性が面倒くさそうに言ったため、思わず言い返しそうになったが――「あんたが迂闊だった」が胸にグサッと刺さったので、反論は呑み込んだ。
「……いえ、私はあの子を信じています。遅れて来た場合は、通してあげてください」
「分かった分かった。……毎年いるんだよなぁ、直前になって逃げるやつ」
あくび混じりに言われたディアナはそれ以上何も言わず、お辞儀をしてから生徒たちの後を追った。