悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 冬の森はしんとしており、時々葉に積もった雪が滑り落ちる音がするくらい。そこにディアナたちが雪と土を踏みしめて歩く音が混じり、なんとも寒々しい。

「静か……ですのね」

 エーリカにぴったりくっつくツェツィーリエがつぶやくと、先頭を歩いていたリュディガーが振り返って頷いた。

「この森はそもそも、うちの学校の試験用に管理されているんだ。魔物がいると野生動物がいなくなる。だから、鳥も小動物もいないんだよ」
「……なんだか、動物たちに申し訳ないですね。私たちのためだけに、すみかを奪われたりして……」
「レーネらしいわね。……でも確かに、なんだかゾクッとするわ。寒いだけじゃなくて、なんだか……怖い……」
「先生たちは、すごいよね……こんな場所に何日もいるなんて僕、耐えられないよ……」

 皆、この森に不安を抱いているようだ。
 ディアナはこれまでにも小型魔物とは戦ったことがあるので、この森そのものに怯えるほどではないし、前世でも閉所や暗所は特に怖くなかった。

(でも確かに、なんだか嫌な予感はするわね……)

 やがて開けた場所に出たため、ディアナは念のためレーネに補食用のビスケットを食べておくように指示を出してから、待っていた教師たちのもとに向かった。
 その場には防寒着の着すぎのために丸々と肥えた校長の姿もあり、彼はディアナを見るとふんと鼻を鳴らした。

「お待たせしました。補講クラス……六人中五人、来ました」
「五人? ……ああ、案の定一人足りないのか」

 普段魔法理論を教えている初老の教師のつぶやきに、魔法応用の教師たちも肩を落とした。一人、フェルディナントだけは不安そうな顔でこちらを見てきたので、微笑みを返しておいた。

「では、イステル先生はこちらへ。知っているだろうが、担任といえど試験が終了するまでは一切の手出しや助言が許されない。あなたがそれを破れば、生徒全員を不合格とする」
「……分かりました」

 ディアナ用の場所には、小さな椅子が置かれていた。
 あそこに一度座ると、試験終了まで腰を上げることはできないのだ。

「……先生!」

 椅子の方へ向かおうとするディアナの背に、ツェツィーリエの声が掛かる。

「わたくしたち、全力を尽くします!」
「……そ、そうです。僕たち、頑張ります!」
「先生は安心して見ていてね」
「私たち、ちゃんと教わったことを生かします!」
「……一人欠けているのは残念だが、最後まで戦ってみせるさ」

 五人が、ディアナに向かって声を掛けている。
 その姿に、じわっとしたものが胸の奥から沸いてくる。

(……うん、私が皆を信じないと)

「……ええ! 皆の勝利を願っています!」

 ディアナは言い、椅子に腰を下ろした。その隣にフェルディナントが立ち、穏やかな微笑みを向けた。
< 57 / 128 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop