悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……いい生徒たちを持ったね」
「ええ、本当に……私にはもったいないくらいのいい子たちです」
「ふふ、よかった。……でも、一人足りないのは……残念だね」

 フェルディナントがつぶやいた直後。

 魔法応用の教師が自分の魔法剣を抜き、森の奥に向かって火花を飛ばした。
 ほぼ同時に魔法理論の教師がしゃがんで地面に手を触れると、生徒たちとディアナの間を遮るような光の壁が立つ。

(皆……頑張って……!)

 ごくっと苦い唾を吞んで、拳を固める。
 生徒たちはリュディガーの指示を受けて、前衛にリュディガーとレーネ、後衛に残りの三人という形に広がった。

 そして。
 ドスン、ドスンという重い足音が近づいてきて、木々の間からぬっと黒い塊が現れた。

 魔物は、何らかの動物に似た形を持っている。これまでにディアナが倒したことのある魔物は、多くが犬や狐、猛禽に似た形をしていた。

(でも、これは……大きい……!)

 現れたのは、見上げるほどの巨躯を持つ漆黒の魔物だった。
 体は黒くて目だけがらんらんと赤く輝いているのが、魔物の特徴。四足で歩いており、顔に該当する部分にはでろんと長いものがぶら下がっている。

(これは、象型……!)

 この世界に象がいるのかどうかは分からないが、見た目は動物園にもいる象によく似ている。
 過去の試験で出た魔物の種類は全て把握していたが、象型は動きこそ鈍感だがとにかく体が大きくて体力がある。

 そして――その性質上、多数の軽傷より重傷を負いやすい課題だった。

「……皆、落ち着け! ツェツィーリエが確実に打てるように、全員でサポートしろ!」

 既にルッツやエーリカは巨大な魔物を前にして腰を抜かしそうになっていたが、リュディガーが活を入れた。騎士の娘であるレーネもすぐに調子を取り戻し、魔法剣に氷の力を込めていた。

 五人の中で魔力が最も高いのは、ツェツィーリエだ。しかも彼女の属性である雷魔法は威力が高く、命中すれば巨大な象魔物でも一撃で倒せるだろう。

 だが、ツェツィーリエはとにかく魔法が当たりにくい。特に焦れば焦るほど命中率が下がり味方に当たりやすくなるので、「あなたはとにかく渾身の一撃だけに賭けましょう」と事前に指示していた。
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