悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
(この学校は学年制だけど、クラス制度はなかったはず……)

 ディアナの返答に、副校長は頷いてみせた。

「ええ、記載しないことになっていますからね。……補講クラスはその名の通り、他の生徒よりも努力を要する生徒たちを集めた特殊クラスです。毎年九月末に行われる前期試験で成績下位だった者や素行不良だった者を指導するために、補講クラス制度をもうけています」
「なるほど。……えっ? 私がそのクラスの担任を?」

 思わず問うと、校長が頷いた。

「そういうことだ。なに、新人講師がこのクラスを担当するのはおまえで始まったことではない。これには、おまえの正式採用試験も兼ねているからな」
「……といいますと?」

 なんだか嫌な予感がすると思いつつ、尋ねる。
 確かにディアナは講師として仮採用された。この学校には日本のような教員免許制度はないが、講師と教諭のような教員内の差は存在するようだ。

 ディアナが問うと、校長は人差し指の先を向けてきた。

「ディアナ・イステル。おまえを教員として正式採用するかどうかは、おまえの教師としての実力を鑑みて決定する。おまえが今年の一年補講クラスの生徒六人のうち三人以上を二年生に進級させることができれば、正式採用してやろう」
「え……」

 なんだそれは、と思うと当時に、そういうことなのか、とも納得してしまう。
 学校卒業者でもない男爵家の娘にいきなり打診をした時点で不思議だとは思っていたが……きっと、彼らにとってのディアナはちょうどいい(・・・・・・)存在なのだろう。

 二年生に進級できるか分からない生徒たちの指導は、きっと困難を極める。それを新人教師に押しつけて、「正式採用してもらいたければ」という条件を付ける。新人教師は必死になって生徒を指導するだろうから、生徒の学力も上がる……はず。

(普通、そういうクラスの担任にはベテランをあてがいそうなものだけど……)

 もやっとする部分もあるが、校長たちの意図も分からなくはないというのが悲しいところだ。

(でも、六人中三人って……)

 ディアナの顔色を見てか、校長はだるそうに足を組み替えて言葉を続けた。

「今年の一年生六十五人のうち、様々な意味での最下位を確保した選りすぐりの六人だ。補講クラスとはいえど、結局のところは退学一歩手前の連中の掃きだめだと思えばいい」

(は、掃きだめ!?)

 まさか校長が自校の生徒についてそんな表現をするとは、とディアナは言葉を失ってしまう。

(補講クラスにベテラン教師を付けないのは、校長がこのクラスを軽視しているから……ってこと!?)
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