悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「まっ……! 待って、皆、後ろ!」
「えっ?」

 ディアナが慌てて声を上げるが、遅かった。

 ツェツィーリエの雷魔法で脳天から砕かれたはずの象魔物がのっそりと起き上がり、口を開いた。
 その先に渦巻くのは――漆黒の闇。

(あれは……闇魔法……!)

 生徒たちが振り返った直後、漆黒の波動が五人に襲いかかった。

 血が、赤が、飛んでいる。

(分かって、いたはずなのに……)

 これまでの試験記録にも、記載されていた。

 冬のグループ試験では、森の管理者が捕らえた魔物が使われる。その魔物は基本的に、厄介な魔法を使わない物理攻撃特化の種族のものに限られている。

 だが……たまにいるのだ。見た目は普通の魔物だが、その内側に強力な闇魔法を秘めたものが。
 そういったものは「変異種」と呼ばれており一度倒してもまた復活し、しかも――復活後の方が強くなる傾向にある。さらに厄介なことに、闇魔法も使ってくるものもいる。

 闇魔法は光魔法と対極の位置にある属性で――その力は、他の属性を圧倒する。

 闇の波動が放たれて、とっさにリュディガーが仲間たちを庇ったのだろう。リュディガーの銀髪が揺れ、ガフッと吐いた血が地面を染める。

「いっ……いやぁぁぁぁぁ!?」
「だ、だめだよ、ツェツィーリエさん! 声を上げたら……」

 ルッツの制止も間に合わず、倒れたリュディガーから次の標的になったのは、悲鳴を上げてへたり込んだツェツィーリエだった。
 赤く輝く目に見つめられ、ツェツィーリエが震え上がっている。

(っ……これは、もうだめだ!)

「先生! もうあの子たちは十分戦いました! 試験はここまでに――」

 ディアナはそう叫んで椅子から立ち上がろうとしたが、大きな手がぐいっとディアナを椅子に押し戻した。

「だめだよ、イステル先生」
「アルノルト先生! でも、変異種が出るなんて……」
「アルノルトの言う通りだ。……ディアナ・イステル。ここで止めれば生徒全員が試験不合格になるが、それでいいのか?」

 フェルディナントに続けて言ったのは、校長だった。
 彼はこの戦闘風景にも眉一つ動かさず、光の壁の向こうを見ていた。
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