悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「生徒たちの方から敗北を認めない限り、教師は手出しをしてはならない。……それがルールだろうが」
「し、しかし!」
「これまでの試験にも変異種が出たことはあるし、生徒たちも倒しているからな」

(そんな……!)

 ショックで頭がガンガンと鳴り始めたディアナだが、さすがにこの状況を見かねたのか、魔法応用の教師が難しい顔で口を開いた。

「しかし、補講クラスの生徒が変異種を倒したという事例はありません」
「だからどうした? 補講クラスの生徒は落ちこぼれではないというのがディアナ・イステルの持論だろうが? ならばこれまでの他の生徒と同様に扱うべきではないのか?」
「そ、それはそうですが……」

 校長には逆らえないのか、他の教師たちも険しい顔で黙ってしまった。

(みんな、傷ついているのに……!)

 勝利を確信してからの反撃は、予想不可能だった。

 象魔物はルッツたちが沈めた地面から這い上がり、リュディガーを踏み潰そうとする。
 すぐにレーネが駆け出してリュディガーの体を引っ張り、少しでも足止めしようとルッツとエーリカが土魔法で土塀を作って応戦している。

 ツェツィーリエも我に返ったようで、急いで雷魔法を放つ――が。

(っ、だめ!)

 ただでさえコントロール力の低いツェツィーリエが動揺した状態で放った雷は、リュディガーを引きずっていたレーネに命中しそうになり、悲鳴が上がった。

「あ、あああ! やだ、レーネ! わ、わたくし……!」
「っくそ……ツェツィーリエ、引っ込め!」
「で、でも……きゃあっ!?」

 象魔物の足が振り上げられ、ツェツィーリエの体が蹴り飛ばされた。
 幸いすぐにレーネの氷魔法で壁が作られてツェツィーリエが吹っ飛ぶことは免れたが、再び象魔物の口から放たれた闇魔法の波動が、ルッツとエーリカも吹っ飛ばした。

「きゃあっ!?」
「う、うう……」

(もう……もういいよ!)

「っ……リュディガー! 降参しなさい!」

 我慢ならずディアナが立ち上がって叫ぶが、上半身を起こしたリュディガーはキッとこちらを睨んできた。

「先生……! オレたちは、まだ……!」
「もういいの! これ以上傷つかないで!」
「いけません、イステル先生!」

 駆け出しそうになったディアナを慌ててフェルディナントが背後から羽交い締めにして、さしもの教師たちも生徒の命の危険を感じたのか魔法剣を構える。
 校長が「おい、おまえたち全員クビになりたいのか!」と叫ぶので、どさくさに紛れてディアナはつま先で土を蹴り上げて校長の顔にぶちまけた。

 ――その、直後。
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