悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……俺は昨日までの間、知り合いの屋敷にいました」

 エルヴィンがゆっくりと話し始めたので、ディアナは黙って耳を傾けた。

「父の知人の……まあ、それはいいとして。その人は聖属性持ちで、回復魔法の使い手でした。そして俺は……風属性の他に、第二属性として聖属性の適性も持っていたんです」

 第二属性。

(確か……ゲームヒロインも、二属性持ちだったっけ)

 ヒロインの場合、生まれたときから弱めの聖属性持ちだと判断されていた。
 だが聖属性は補助的な立場である第二属性で、彼女のメインとなる属性が光属性であることが十五歳の秋に判明したことで、「ヒカリン」オープニングにつながる。

(複数属性持ちも、まれに生まれるということだけど……まさかシュナイト君が二属性持ちだとは思っていなかったわ)

「そういう記録、なかったですよね?」
「ええ。俺の第二属性はとても弱かったので、この学校に入学する際に提出した書類に記載する数値に至らなかったからです」
「……あなたがその知人に会いに行ったのは、第二属性の力を伸ばすため?」

 ディアナの問いに、エルヴィンは頷いた。

「……俺は、俺にできることをやろうと思いました。俺は、あんたの力になりたいと思ったし、補講クラスの一員としてできることをしたかった。だから、急ではあったけれどグループ試験の日までに聖属性を鍛えることにしたんです」
「……そう、だったのね。でもどうして、あんなに急に? それに、遅れてしまったのも……」
「……また、聞いてしまったんです」

 エルヴィンは、静かに言う。

「あんたは……また、校長から条件を出されたんでしょう? しかも今回は、俺たち六人全員が進級したら補講クラスについて再考するって」
「……え」
「その顔、本当なんですね」

 言葉を失ったディアナを見て、エルヴィンはすっと険しい顔になった。
 いつもはどちらかというと表情の変化に乏しい彼にしては、珍しい。

「あんた一人だけのためなら、俺はサボり続けてもよかった。でも……あんたは俺たちだけじゃなくて、俺たちの次の学年で補講クラスに入れられるかもしれない生徒のために、条件を吞んだんでしょう」
「……そんな高尚なものじゃないです」

 エルヴィンの言葉に、ディアナは力なく首を横に振った。
 本当に、そんな立派なことをしたわけではない。

「私は……ただ、言い返せなかっただけですよ。落ちこぼれや掃きだめクラスと言われるのが嫌で、言い返したけれど……いざそんな条件を出されると、何も言えなかった」

 勤務初日に校長室で言われたときも、そうだ。

 六人中三人以上進級させられたら正式採用、というのもディアナの方から条件をはっきりと吞んだのではなくて、流されるままだった。

(私の意思なんて……ない……)
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