悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 部屋に戻って休むというエルヴィンと別れたディアナは、一階奥にある食堂に向かった。

(ライトマイヤー君や女の子たちは皆、ご飯も食べずに眠ってしまったものね。目が覚めたときにすぐに摘まめるものでも準備しておこう……あれっ?)

「ベイル君……?」
「よっす、先生。エルヴィンとの話は終わったのか?」

 食堂には明かりが灯っており、ドアを開けると椅子にだらしなく座って保存用のパンをかじるリュディガーの姿があった。

「……あ、そっか。そういえば食堂に行くと言っていましたね」
「おいおい、忘れていたのかよ。もしかしてこの色男に会いに来てくれたのかなー、って思ったのによ」
「いいえ、先に眠った子たちの軽食でも準備しようと思ったのです」
「そうかい」

 リュディガーは微笑むと、「オレも手伝うよ」と言ってくれたが、彼には座って食事をしてもらうことにした。

(パンと、ミルクと……あ、そういえば甘いチーズもあったわね)

 あらかじめフェルディナントにものの場所は教わっていたので、食料庫にあるものはだいたい分かっている。

 目当てのものを抱えて食堂に戻ると、リュディガーが棚の前にしゃがみ込みワインのボトルを出していた。

「こら。十七歳はまだお酒を飲んではいけないでしょう」
「分かってる分かってる。オレの目当ては……あ、やっぱりあった」

 リュディガーが棚の奥に手を突っ込んで取り出したのは、熟成ブドウジュースの瓶だった。持っているワインは、奥にあるジュースを探すために一時的に出していただけのようだ。

 椅子に戻ったリュディガーは片手で器用に蓋を開け、手酌で中身をグラスに注いだ。

「注ぎましょうか?」
「おっ、いいね。麗しの先生に酌をしてもらえるなんて、オレは幸せ者だよ」
「はいはい」

 ボトルを受け取ってジュースを注ぎ、ディアナは食料庫から持ってきたものをバスケットに詰め始める。

「……あ、そうだ。今日のオレ、大活躍だったよな?」

 背後からどこか楽しそうにリュディガーに言われたので、バスケットに手拭きも入れていたディアナはくすっと笑う。

「ええ、その通りでしたよ。あなたが皆を指揮して鼓舞して盾になってくれたから……皆、こうして戻ってこられました。……あっ、そうだ。シュナイト君が回復魔法を使いましたが、怪我はあの後なんともないですか?」
「ちょっと血が減った気がするけど、先生が来るまでの間に肉食ったから平気。傷も塞がっているし……聖属性って便利だよな」
「そうですね。まさか、シュナイト君が二属性持ちだとは思っていませんでしたが……」
「まあ、二属性持ちは珍しがられるから、あえて公表しない人もいるみたいだし。……エルヴィンもこれから、要求されることが増えるかもしれないな」
「ふふ、そうですね。でも、もう彼は逃げないと思いますよ」

 先ほどあれだけ真っ直ぐな目を向けてくれたのだ。
 聖属性を鍛えることについても、面倒になることを承知で……仲間のために頑張ってくれた。

 ほんのりと温かい気持ちになりながらバスケットの蓋を閉めていると、ふとリュディガーの声に真剣な色が混じった。
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