悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……それでさ、先生。今日、あれだけ頑張ったオレに何か、ご褒美でもくれねぇかな?」
「ご褒美? ……金品はだめですよ」
「んなの分かってるっての。もっとお手軽なものがほしいなぁーって思ってるんだけど」
「うん?」

 振り返った先にいるリュディガーの目元は笑っているが、瞳は真剣だ。

(お手軽な、ご褒美……)

 そう言われて真っ先に思いついたのは、前世の小学校で子どもたちが作っていた折り紙のメダル。
 真ん中に金ぴかの「がんばりました」シールを貼られたそれをリュディガーが胸に飾っている姿を想像して、すぐに却下する。

(金品ではなくて、メダルでもなくて……賞状とか? でもそんなのを十七歳の子がもらってもねぇ……)

 ディアナが難しい顔で考え込んでいるからか、リュディガーは笑みを深くすると節くれ立った人差し指で自分の唇をとんとんと叩いた。

「オレが先生からほしいもののヒントは、これ」

(唇……?)

 ディアナは、意味深な笑みを浮かべるリュディガーの薄い唇を見つめる。

(少女漫画とかなら、「ご褒美はキスで」とかってあるけど……うん、ないわね)

 そんなことをすれば前世なら懲戒免職一直線だ。この世界の学校にも懲戒免職があるかは分からないが、前世の感覚を抱えた今のディアナはちょっと遠慮したい案件だ。

(唇、唇……あ、そうだ! そういえば、アルノルト先生が……)

「分かりました」
「えっ、分かっちゃったのか?」
「ええ。……ちょっと待ってくださいね」

 すぐに食料庫に行き、目当てのものを探して食堂に戻る。
 そして持ってきたものの包みをほどくと、中身を一つ摘まんでリュディガーの唇にぐいっと押しつけた。
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