悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「……さて。みなさん、新年祭を楽しみにしているようですが……三月には進級試験が待ち構えています。楽しむべきところはしっかりと楽しむのがよいので、切り替えだけははっきりしてくださいね。新年祭も、節度を持って臨むように」
「……あの、先生。そういえば先生は、新年祭に参加するのですか?」

 レーネがそう聞いた瞬間、伏せていたエルヴィンがむっくりと起き上がり、そんな彼の頭の上に筆記用具を積んでいたリュディガーもさっとこちらを見たのが分かった。

「……おー、そうだ。せっかくだし先生、オレとファーストダンスを踊らねぇか?」
「リュディガー! あなたはほんっとうに懲りない男ね!」

 くわっとツェツィーリエが噛みつくが、リュディガーはけたけたと笑い飛ばすばかりだ。

「懲りるも何も、別にオレは悪いことは言ってないだろう? というかそもそもの発端は、おまえがオレに『あなたと踊る女性なんていないでしょうね』って言ったことだったって、さっきおまえも認めたじゃねぇか」
「そ、そうですけれど! だからといって先生を誘うなんて……」
「いーじゃん。うちの担任の先生はこんな美人なんだぜー、って他のやつらにアピールできるじゃん?」
「……いや、だからといってあんたと踊る必要はないだろう」

 けだるげに突っ込んだのは、エルヴィン。
 彼はなおもペンを頭の上に乗せてこようとするリュディガーの肩を殴り、三白眼で隣の席の男を睨んだ。

「……というか、生徒が先生を誘うものなのか? 俺たちが踊るとしたら、女子生徒とだけじゃないのか?」
「いやいや、先生もまだ二十一歳だし十分イケるだろ」
「リュ、リュディガー。あの、年齢じゃなくて立場の問題だと思うよ……」
「分かってる分かってる。……あー、さてはツェツィーリエ。オレがおまえを誘わず先生を誘うからって嫉妬してんだろ? 本当は、オレと踊りたかったとか?」
「……」
「おい、なんだその怪奇生物を見たような顔は」
「あなたに誘われるくらいなら、食堂にある残飯の中に頭を突っ込んだ方がましだわ」
「オレは残飯以下か!?」
「もう、二人とも。そもそもツェリは婚約者さんと踊るんだからね」

 エーリカがやんわりと言ったため、レーネが「そっかー」とつぶやく。

「ツェリさんの婚約者、新年祭に来てくれるんだね」
「ええ! だ、か、ら! わたくしは最初から最後まで相手がいますので、ご心配なく!」
「おまえ……」
「……えーっと、盛り上がっているようなのですが」

 ディアナが小さく手を上げると、「ああ、そうだった」とルッツが目を瞬かせた。

「先生も踊るとか踊らないとかって話……でしたよね」
「それなのですが。私、踊りません……というか、新年祭ダンスパーティーには参加しません」
「えっ?」

 今、数人分の声が被った。
 男子と女子両方の声が重なったので、誰がつぶやいたのかは分からないが。
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