悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「私たち若手教員は当日、校内の巡回を行うことになっています。だから、ダンスパーティーをしているホールの近くにすら行かないのです」
「……あっ。そういえばお兄様がそうおっしゃっていました」

 ツェツィーリエが思い出したように言ったため、エーリカが首をかしげた。

「お兄様……ええと。確か、従兄のお兄さんだったかしら?」
「そう。お兄様はわたくしより六つ上でスートニエの卒業生ですの。……お兄様がおっしゃるに、新年祭の夜は生徒たちもいろいろ盛り上がる(・・・・・)ので、手の空いている先生方は不純異性交遊などをしている生徒がいないか見回りをするのだと……」
「はい、そういうことです」

 ダンスパーティーでは、異性間同性間問わず生徒たちが親密になる。
 それはそれでいいことなのだが、少々調子に乗りすぎてよろしくないところまで進みそうになるカップルも毎年現れるという。

 スートニエ魔法学校では、生徒同士の交際は自由だ。中には婚約者同士の者もいるからだ。
 だが、いわゆる体の関係になることは固く禁じられており、それがバレた場合はどれほど成績優秀だろうと身分が高かろうと、一発退学処分となるという。

(過去には、王族と恋仲になった貴族令嬢が二人まとめて退学処分になったってこともあるらしいし……)

 生徒たちだって分かっているし、指導された二人は必ず、「こんなつもりではなかった」と青ざめるという。
 気分が盛り上がって、つい――となるのを防ぎ学校に留めさせるのが、見回りをする目的だ。

「もちろん、何事も起こらないのが一番ですが……少なくとも深夜までは見回りをするので、当日の夜はみなさんには会えないと思います」
「残念だわ……あたし、きれいに着飾った先生とお喋りをしたいと思ってたの」

 エーリカが眉を垂らして言うと、レーネも頷いた。

「私も。おいしいものもたくさんあるらしいし、一緒に食べたかったなぁ」
「ごめんなさい。でも新年祭はそもそも生徒たちのための会ですから、お友だち同士で楽しんでくださいね」
「……そういえば、先生。若手教員が見回りをするということですが、先生も誰かと一緒に回るのですか?」

 ツェツィーリエに問われて、ディアナは本日使う石版を鞄から出しながら頷く。

「ええ。アルノルト先生に誘われました」
「あ?」
「は?」

 今、地の底を這うような低い声が二人分、聞こえた。
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