悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「リュディガー、エルヴィン、何ですの。そんな……あら、やだ。おそろいの怖い顔だわ」
「そう? あたしには、リュディガーは笑っているしエルヴィンは眠そうに見えるけど?」
「あれよ、あれ。内心ははらわたが煮えくり返るような気持ち……ってやつじゃない?」

 好き勝手に言う女子たちをよそに、すっと立ち上がったのはエルヴィン。

「先生。俺、新年祭のダンスパーティーはサボる」
「おまえ、こういうときにはサボり魔の名をうまく使うよな……」

 そうぼやきつつ、リュディガーもひらひらと片手を挙げた。

「とはいえ、オレもその組み合わせにはちょーっと異議ありだな」
「そうですか? アルノルト先生はベテランですし」
「ビギナーかベテランかは関係ないっての」
「……俺、あの先生あんまり好きじゃない。女の先生はいないのか?」
「ええと……実は他の女性の先生方は、新年祭にはプライベートの用事があるらしくて……」

 スートニエ魔法学校に勤務する女性教師の中で、最年少がディアナだ。他の女性教師たちは恋人や婚約者、家族がおり、そちらと一緒に過ごすために早いうちから有休を取っているのだ。

(いくら新年祭の日は特別手当がたんまりもらえるとはいえ、好きな人と一緒に過ごす方を優先するのはもっともよね……)

 よって、これといった相手もいないし実家に必ず帰らなければならないわけでもないディアナのみが、ぽろんと残されてしまったのだった。
 そんなぼっちに笑顔で声を掛けてくれたフェルディナントには、むしろ礼を言いたいくらいだ。

 そう説明したのだが、男子二人はますます笑みと眉間の皺を深くするだけだった。

「……よし、今くらいは共闘するぞ、エルヴィン。オレたちで一緒に襲いかかればアルノルト先生も倒せるだろう」
「乗った」
「や、め、な、さ、い!」

 物騒な計画を立てる男子二人は、お仕置きで「頭冷え冷えの刑」に処した。
 これは氷属性のディアナが編み出したオリジナル魔法で、今エルヴィンとリュディガーの頭の上には巨大な雪だるま型の氷の塊が乗っかっており、二人とも苦悶の声を上げている。見た目のわりに重くも痛くもないが、反省するまでは取ってやらない。

 ツェツィーリエは、「これだから馬鹿男子は……」とため息をついた後、鞄から教科書を出した。

「……それじゃあ先生、雑談が伸びてしまいましたが……進級試験に向けての授業、お願いしますね」
「ええ。皆が合格できるよう、頑張りましょう」
「はい!」

 四人分の元気な声と、二人分のうめき声が教室に響いた。
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