悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 スートニエ魔法学校には、いわゆる冬休みは存在しない。
 だがさすがに年末と新年だけは平日だろうと授業は休みで、新しい年を盛大に祝うための準備が行われる。

 生徒たちは今日のために礼服やドレスを準備しており、特に女子生徒は朝から友人たちと一緒に髪や肌の手入れにいそしんでいた。廊下ですれ違う少女たちはいつもよりも化粧が濃いめで、ほんのりといい匂いもする。

 ツェツィーリエのように、学生の家族や婚約者であれば外部の人間でもパーティーへの参加が許される。
 よってディアナたちは朝から招待客や来賓の応対をして、部屋に案内して、もちろん生徒たちが浮かれすぎないかにも目を光らせて……と、休む暇もなかった。

(でも、今日の特別手当は本当においしいのよね……)

 使用人たちはいるものの、教員の人手が足りなくなる今日出勤すると破格の手当が支給される。
 校長室で渡された書類を見るに、今日一日働くだけで半月分の給料相当額をもらえるようだ。

(うちはそこまでお金に困っているわけじゃないけれど……多いに越したことはないわ。男爵領にいる子どもたちに、おもちゃや勉強道具を買ってあげられるし)

 ディアナ自身は金の掛かる趣味はないので、使うとしたら家族や領民用だ。

(前世も結局、給料のほとんどを使うことなく死んでしまったものね……)

 親不孝者の娘で申し訳なかったので、前世の三年間で稼いだ金は全て家族に使ってもらえたらと願っている。

 夕方になると、着飾った生徒たちがホールに移動し始めた。
 廊下に立って様子を見たところ、会場付近で待ち合わせをしているようだ。そして紳士の心得として、女子生徒よりも男子生徒の方が早く到着するようにしているのか、男子生徒が圧倒的に多かった。

(みんな、きらきらしているわね……)

 生徒たちはディアナを見ると会釈してきたが、今のディアナはいつもの教師用制服姿だ。
 このドレスも光沢のある布地でなかなか品があるが、女子生徒たちのドレスには適うはずもない。おまけに念のため魔法剣も腰から提げているので、ダンスパーティーにふさわしい格好とは言えなかった。

 途中、婚約者らしい男性と寄り添って入場する薄桃色のドレスのツェツィーリエが見えた。彼女はディアナの方はちらっと見ただけだが、その嬉しそうな横顔を見られただけで十分だった。

 また、少し前から真っ青な顔のルッツが柱の近くに立っていたので、誰を待っているのか気になっていた。
 そうしてやって来たのは、若草色のドレスを着たレーネだった。

(なるほど。しっかり者のトンベックさんなら、ライトマイヤー君もあまり緊張せずに済みそうね)

 二人はディアナを見ると手を振ってきたので、笑顔で手を振り返した。

 レモンサイダーのような淡い色のドレスのエーリカは、ディアナの知らない男子生徒と一緒だった。確か彼女は二年生に知り合いの男子生徒がいると言っていたから、彼がその人なのだろう。

 そして開始時間ぎりぎりに、女子生徒に囲まれたリュディガーが到着した。女性関連で問題ありと言われた彼だが、色気のある顔つきに頼もしい性格をしているからか憧れる女子生徒は多いようだ。

 ただ、濃い赤色のジャケット姿の彼はずっとむっつりとしており、人に埋もれていたディアナには気づいた様子もなくホールに入ってしまった。
 その後ろから、「やっぱりリュディガーって格好いいわよね」「女たらしでも構わないから、一度遊んでほしいわ」という声が聞こえてきた。

(遊ぶこと自体は止めないけれど、程度は考えてね……)

 結局最後までエルヴィンは現れなかったが、彼なら堂々とサボっていそうだ。この時季はバルコニーでは昼寝ができないので、さっさと自室で寝ているのかもしれない。
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