悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 校長との面談の後に、ディアナは職員室に案内された。

(あ、ここの風景も、ゲームのスチルにあったっけ……)

 近世ヨーロッパくらいの世界観なのに職員室内の風景はやけに現代日本風で、ゲームをプレイしながらも突っ込みたくなったものだ。さすがにパソコンやコピー機などはないようだが。

「ああ、君が新任講師だね?」

 すれ違った同僚たちに挨拶しながら自分の席に着くと、爽やかな声がした。
 そちらに目をやると、ディアナの隣の席に着いている若い男性が笑顔でこちらを見ていた。

(って……ああああっ! 攻略対象にこの人、いた!)

 柔らかい麦穂色の髪に、赤とピンクの中間のような色の目。この学校の保健室の先生的立場であり聖魔法の授業の指導も担当している。
 微笑む姿は穏やかそうだがなかなかイイ性格をしている、「癖あり年上キャラ」。

 名前は、忘れた。

「は、はい。ディアナ・イステルと申します」
「イステル先生だね。僕は校医のフェルディナント・ヴェルナー・アルノルト。アルノルト公爵家の縁者で、スートニエでは聖属性魔法の実技と理論も教えているよ。フェルと呼んでくれたら嬉しいな」

 そう、そのような名前だった。

「いえ、愛称で呼ぶなんて滅相もございません。どうか、アルノルト先生と呼ばせてください」
「真面目なんだねぇ、了解。僕、君の指導係になったから、よろしく頼むよ」
「左様でしたか。こちらこそ、よろしくお願いします」

(う、うーん……早速攻略対象と接点を持ってしまったか……)

 フェルディナントルートは途中でプレイするのをやめてしまい、あまりストーリーなどが記憶に残っていない。ネット上で行われた人気投票では、なかなかの順位をたたき出していた気がする。

 なお、フェルディナントの立場からすると彼の役職は養護教諭で日本の学校における「校医」とは違うのだが、この世界に教諭という言葉が存在しないからかゲームでも彼の役職名は校医となっているようだ。
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