悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 生徒指導室代わりの倉庫にて事情聴取を行った結果、なかなか面倒なことが判明した。

「……あの男子生徒は誰かに依頼されて、シュナイト君を名乗って女子生徒を誘惑した……?」

 人気のない職員室にて。
 頭が痛くなりそうな報告を聞いたディアナがうめくと、フェルディナントは難しい顔で頷いた。

「どうやら昨日の朝、彼の部屋のドアノブに袋が下がっていたそうだ。その中には指示書とエルヴィン・シュナイト君に化けるために使う鬘、そして報酬らしき金が入っていたという」

 男子生徒は涙と鼻水で顔面べしょべしょになりながら、「一度モテたかった。暗い教室の中だし、バレないと思った」と全て告白した。
 また真っ白な顔の女子生徒も「ずっと密かに憧れていたシュナイト君に誘われたと思って、舞い上がってしまった」と反省していたという。

 教員内での相談の末、これは下手すれば名前だけ使われて巻き込まれたエルヴィンへの風評被害になるということで、生徒二人には厳重注意をして口止めも命じた。
 二人とも今は反省しているし退学も回避したいらしく、何度も頷いていた。もちろん、男子生徒が受け取った金も学校が預かっている。

「私たちが気づかなかったら、もっとひどいことになっていましたよね……」
「間違いなく。だから、あのとき敏感に異変に気づいたイステル先生のお手柄だよ」

 フェルディナントはそう言ってから、ふと険しい顔つきになった。

「……それにしても。今回の件は、単純なエルヴィン・シュナイト君への嫌がらせとは思えない」
「ですよね! シュナイト君は最近真面目に頑張っているのに、あんな濡れ衣を着せられるなんて……」
「……それだけじゃない」

 持っていた報告書をデスクに置き、フェルディナントはディアナの隣に座った。

「……最近の君たちの頑張りで、補講クラスへの見方を改める教職員や生徒が増えているのは事実だ。でも……中には、君の行いをよしと思わない者もいる」
「それは――」

 校長先生とか、ですか。
 思ったが言えずディアナが言葉を濁すと、フェルディナントは少しうつむいた。

「僕も、誰がということは言えない。でも、今回ダンスパーティー中にシュナイト君の評判を落とすことで好都合になるという人物も……いなくはないと思う」
「……」

 フェルディナントの言葉に、ディアナはぎゅっとスカートを掴んだ。

(皆に進級されたら困るから、こんな手を使うというの……!?)

 生徒たちは、頑張っているだけなのに。
 最初はサボる気満々だったエルヴィンも、進級した上で親戚と向き合いたいと言ってくれたというのに。

「……許せない」
「先生……」
「教えてくれてありがとうございます、アルノルト先生。……私、あの子たちを守りたいです」

 六人とも、ディアナにとってのかけがえのない教え子だ。
 皆が無事に進級して補講クラスを離れていくまで、守り続けたい。

 フェルディナントはディアナの顔を見つめると、ふわりと微笑んだ。

「……うん、君ならそう言うと思っていたよ。僕も、応援する」
「先生……ありがとうございます」
「でもね。……生徒たちにとっての君は頼りになる大人だけど、君だってまだ若い女性なんだ。……辛くなったり寂しくなったりしたら、いつでもおいで。いくらでも話を聞くし、抱きしめるくらいならしてあげるから」
「……ふふ。そういうこと、やたらめったら言うものじゃないですよ」

 ディアナが微笑んで指摘すると、フェルディナントは「そうかなぁ」と言いながらも笑顔だった。
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