悪役教師は、平和な学校生活を送りたい

疑惑と混乱

 新年祭が終わると、学校全体がぴりりとした緊張に包まれる。

 一年生は、三月に控える進級試験に備えなければならない。進級が怪しいとされた六人の生徒は補講クラスにいるが、それ以外の生徒でもあまりにもひどい点数だと退学の可能性があるのだ。

 二年生の方は、卒業のための試験などはない。だが多くの生徒が十八歳の成人を迎えており、結婚や就職、家督を継ぐための準備などで忙しいという。
 当然、学校に通うよりも実家で準備をする方がいいということで、これから卒業式までの間はほとんど学校に来ない生徒もいるという。

 生徒たちが寒風吹き付ける訓練場で魔法応用の授業を受けている間、ディアナはストーブを焚いた教室で補講時間用の準備をしていた。
 教卓には、これまで各科目の教師たちから受け取った成績一覧が広がっている。

(後期課程開始直後よりは、皆の成績も安定してきている。それでもまだ進級が難しそうな子もいる……)

 リュディガーは魔法応用が得意で、後の教科もまんべんなく点数を取れる。補助教科の馬術や武術でも活躍しているようなので、彼に関してはこのまま問題なく進級できそうだ。

 レーネも、成績が安定している。この数ヶ月間の観察により、彼女は食事にさえ気をつけていれば低血糖にならないと判明したので、試験当日の朝食の量は抑えめにして、試験の間の休み時間ごとに少しずつ菓子を食べることで体調も安定するはずだ。

 エルヴィンも、サボり魔ではあったが元々の能力はそれなりにあるようだ。内容が小難しい魔法理論ではツェツィーリエに教えてもらっている光景も見られるが、当日も遅刻しなければ大丈夫だろう。

 ルッツも成績は問題なくて、「不安になったら逃げてもいい」と言ってからは気持ちもかなり落ち着いていた。
 それでもまだたまに混乱してぷるぷる震えてしまうことがあるので、彼は勉強を詰め込みすぎるのではなくて睡眠時間や食事をしっかり取っておくようにとアドバイスしている。

 ツェツィーリエは、相変わらず魔法実技で不安がある。
 冬のグループ試験を通して、「焦れば失敗する」ということを深く意識するようになったようだが、彼女もまた試験当日に落ち着くことが一番大切だろう。

 そして、エーリカ。

(赤点連発……まではいかないけれど、ムラがあるのよね)

 この学校での赤点は、平均点の三分の一だ。しかも名称も、「落第点」となかなかきつい。
 以前エーリカは魔法理論と基礎教養においてこの落第点の常連だったが、冬になってからは落第点をほとんど取らなくなった。各教師に、「ブラウアーさんよりも点数の悪い生徒はいます」と言われるくらいだ。

 それでも彼女は「自分は落ちこぼれだ」と無意識のうちに思っており、緊張すればするほど間違いが多くなる。
 実際、全く同じ問題でも補講時間中に仲間と一緒に解くのと六十人越えの同級生のいるクラスで解くのでは、かなりの点数差が生まれていた。

(さすがに、別室対応はできないし。……プレッシャーに関しては、とにかく落ち着いて真剣に挑むことしかないのよね……)

 特にエーリカの成績について悩んでいると、教室のドアがノックされた。すぐに成績表をしまって「どうぞ」と言うと、寒そうに身を震わせたエルヴィンが入ってきた。
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