悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 皆の体が暖まった後の補講時間で、進級試験の準備をする。

 案の定エーリカが座学系で苦戦しているようなので、ルッツやツェツィーリエたちが彼女の机を囲んで説明している。
 そこにディアナも加わり、わいわい賑やかに教え合っていた。

「……なあ、エルヴィン」

 エルヴィンはそんな担任と同級生たちの様子をぼんやりと見ていたのだが、右側からリュディガーに突かれた。
 嫌々そちらを見ると、既に自分の分の課題を終えたリュディガーが妙に真剣な顔でこちらを見ていた。

「おまえさ、さっき先生と二人っきりだっただろ」
「……そうだけど、だから何?」

 小声で聞いてきたので自分も声量を抑えて言い返すと、リュディガーは面白くなさそうに顔をゆがめてペン先でエルヴィンの頭をつんと刺した。

「おい、いってぇな……!」
「あはは、今の顔、先生の前じゃ絶対に見せないだろ?」
「……あんたこそ、先生の前では頼りになる兄貴分でいたいんだろう?」

 エルヴィンが言い返すと、リュディガーは薄い笑みを浮かべた。

「そうだけど? 男なんだから、レディには格好いいところを見せたいに決まってんじゃん?」
「……」
「ま、おまえが抜け駆けしようものならオレも作戦を変えるだけだし?」

 お気楽そうなリュディガーの言葉にエルヴィンはさっとそちらを見やるが、銀髪の同級生は余裕の笑みを浮かべていた。

「おまえ、相手に嫌われるくらいならこのままでいいや、ってタイプだろ? オレは違うんだよね。そっけなくされたら追いかけたくなるし、余裕な態度を取られたらその仮面を剥ぎ取りたくなる」
「……変態」
「言ってろ、ムッツリ」
「オープンな変態になるくらいなら、俺はムッツリでいい」
「いちいちうるせぇなこの純粋野郎」

 男子生徒たちのやり取りは、エーリカの周りに集まる生徒たちの賑やかな声にかき消されていった。
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