悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 だが残念ながら、エーリカをなだめに行ったツェツィーリエとレーネは、二人だけで戻ってきた。

「エーリカも、先生のことを嫌うつもりはないし……むしろ、少しでも疑ってしまったことを後悔しているようでした」
「でも、今はちょっと先生とは顔を合わせられないって言ってました。ちょうどアルノルト先生が通りがかったから、エーリカさんはしばらく医務室で休むことになってます」
「……分かりました。ありがとうございます、ヴィンデルバンドさん、トンベックさん」

 女子二人の報告に続いてディアナは、普段の席とは違いエルヴィンとリュディガーの間に埋まるように座っているルッツを見やった。

「ライトマイヤー君。……私が先ほど話したのが全てですが……」
「……わ、分かっています。僕、混乱して、息が苦しくなってしまったけれど……先生はそんな冷酷な人じゃないって、分かってます」

 ルッツの顔色はまだそれほどよくないが、特別ということでレーネから菓子を分けてもらったりツェツィーリエが持ってきていた温かい紅茶を飲んだりして、かなり落ち着いたようだ。

「僕、一つ不安なことがあるとどんどん悪い方向に物事を考えてしまって……すみません。でも、エルヴィンにもたしなめられました。結局のところは、僕たちが全員合格すればいいだけの話だって」
「それはまあ……そうですけれど」
「怖がりな僕のことを馬鹿にせずに、僕が授業を受けられるように工夫をしてくれたのは先生です。……もし本当に先生が僕を切り捨てる気なら、もっと早くに見切りを付けたはずです」

 ルッツはそう言うと、エルヴィンとリュディガーの肩を借りて立ち上がり、頭を下げた。

「……取り乱してごめんなさい、先生。僕……進級試験、頑張ります」
「ライトマイヤー君……」
「誰がどうして噂を流したのかは分からないんですけど……でも、こんなのに踊らされるわけにはいきません。僕、頑張ります。頑張るから……最後まで、僕たちのことを、見ていてください」

 震えながらも真っ直ぐこちらを見つめるルッツの眼差しを受け、ディアナはしっかりと頷いてみせたのだった。
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