悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
「みなさん、半年間本当によく頑張りました。……皆の頑張りは明日の試験で評価されます」

 ディアナが話を始めると、それまでわいわいしていた六人はさっと静かになった。

 明日は一日かけて一年生の全生徒が、魔法実技、魔法理論、魔法応用、基礎教養の全ての試験を行う。
 教員も試験監督などにつきっきりになるので、二年生も明日は実家や寮で過ごすように言われているそうだ。

「明日は、皆の全力を出してください。皆が最良の結果を持ってくることを……願っています」

 全員合格できるはずです、なんて無責任なことは言えない。言ってはならない。
 だが、ディアナは今の六人なら全員合格できると信じている。

 そうして言葉を切ると、すっとエーリカが立ち上がった。

「先生。……あたしたち、頑張ります。六人全員で進級合格通知を先生に渡せるように、頑張ります!」
「ブラウアーさん……」
「だから、ですね。……みんな合格できたら……たくさん、褒めてくださいね」

 これはきっと、六人の中で一番進級が難しそうだと言われるエーリカの発言だからこそ、重みを持っているのだろう。

(……本当は、もっと励ましたい。でも――)

 できない約束は、してはならない。
 それでも。

「……ええ、もちろんです。たくさん褒めますし、ご褒美も準備します」
「え、マジ? ご褒美あるの?」

 ここで食いついてきたのは、リュディガー。
 それまでは黙ってディアナとエーリカの話を聞いていた彼はずいっと身を乗り出し、色気のある笑みを浮かべた。

「それじゃ……今度こそ、先生からとっておきのご褒美をもらっちまおうかなぁ」
「ちょっと、リュディガー! あなたまさか、破廉恥なことを考えているのでないの!?」
「おいおい、オレは『とっておきのご褒美』としか言ってないだろ? ここで破廉恥な発想をしたおまえの方が破廉恥なんじゃねぇの?」
「し、失礼なっ……!」

 ツェツィーリエは顔を真っ赤にするが、さすがにからかいすぎたからかエルヴィンがリュディガーの肩を軽く小突いた。

「あんた……試験前日に揉めてんじゃない」
「悪い悪い。でも、緊張ぴりっぴりよりはいいんじゃねぇの? なあ、ルッツ」
「……そ、そうだね。僕はそれこそ、緊張したら震えてくるから……これくらいのがいいかも」
「ちょっと、ルッツ! だからといってわたくしをダシにしないでくださる!?」
「ご、ごめんっ!」
「あらもう、ツェリったら。あんまりにも元気すぎたら、明日疲れちゃうわよ?」
「それもそうねー。だって明日、私たちは丸々一日掛けて試験なんでしょ? お腹も空くよね……」
「トンベックさんは前から言っているように、朝食の量は減らして随時補食でエネルギーを取るようにしてくださいね」
「うん、そうします」
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