悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
 今日は早めに休むようにと皆に言い、生徒たちはディアナに挨拶をしてから教室を出て行った。

「あ、ちょっと待ってくれよ、先生」

 最後まで教室に残っていたリュディガーが、教室のカーテンを閉めていたディアナを呼んだ。

「どうかしましたか? 明日のことで何か不安でも?」
「いや、オレはむしろ試験が楽しみで仕方ねぇくらいだな。過去最高記録をたたき出して、先生を惚れさせてやるよ」

 リュディガーが笑いながら言うので、ディアナも笑顔を返した。

「それはそれは。ひょっとすると、あなたを追っかける女子生徒がますます増えるかもしれないですね」
「……。……あのさ、先生」

 ふいに、真剣な声が聞こえた。

 次のカーテンを閉めようとしていたディアナは振り返り――思いがけず近くまでリュディガーが迫っていたため、ひっと小さく息を吞んだ。

「び、びっくりした……何ですか?」
「……冬のグループ試験の続き。今回合格したら、とっておきのご褒美をくれよ」
「……チーズはもうありません」

 フェルディナントからもらったあの胡椒入りチーズは、とっくの昔にディアナがたいらげている。

「チーズはもういいから。それよりほしいのは……先生の、これ」

 そう言いながら伸ばされた人差し指が――ふに、とディアナの唇に触れた。

(……ん、んんん?)

「何……?」
「おっ、先生ってグロスするんだ。道理でつやつやと色っぽかったんだな」

 リュディガーは笑いながらディアナの下唇につうっと指を這わせると、自分の指先に付いたグロスのてかりをしげしげと見つめていた。

(……ええと、ええと……これは、何!?)

 さすがにこれはまずい、とディアナも分かった。
 そして、リュディガーの示す「とっておきのご褒美」の意味も。
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