悪役教師は、平和な学校生活を送りたい
(本当になんなの、もう!)

 下半身が凍り付けになったリュディガーを教室に残し、ディアナは肩を怒らせて廊下を歩いていた。

 彼女が怒って教室を出るまで、「ごめんなさい! 許してくれー!」という悲鳴は聞こえていた。
 だが、あれは甘えているだけだ。魔力は抑えているし、そもそも火属性の彼ならあの程度の氷なら難なく溶かせる。
 むしろ下手に同情して部屋に戻れば今度こそ、捕まってしまいそうだ。

(というか、冬のグループ試験のときも冗談じゃなかったってこと……? うう、十七歳恐ろしい……!)

 ご褒美に担任のキスなんかを求める男がいていいものなのか。
 それとも彼は攻略対象だから、これくらいぶっ飛んでいるくらいがちょうどいいのだろうか。

 一学年下のヒロインに色気で迫っていたはずだからてっきり年下好みだと思いきや、とんでもないダークホースだった。
 彼には今後、いろいろな意味で注意しなければならない。職員室でも、「女性教員はリュディガー・ベイルに要注意」と警告しておくべきだろうか。

(……さすがにキスのご褒美はだめだけど……あ、そうだ。皆でパーティーでもしようかな)

 これ以上リュディガーのことを考えていたら頭の中のツェツィーリエに「破廉恥です!」と言われそうなので、無理矢理方向転換する。

 六人全員合格したら、皆と一緒に食事でも行ったらどうだろうか。校長などに許可を取る必要があるが、以前フェルディナントが「打ち上げ扱いなら、いいみたいだよ」と教えてくれたのできっと大丈夫だ。

 侯爵令嬢のツェツィーリエなどの舌では満足できないだろうが、それなりの店には連れて行ってねぎらってやりたい。

(もし合格できなくても、皆十分頑張ったということでご褒美をあげるべきよね……あっ)

「シュナイト君?」
「……先生?」

 春めいてきた校庭に生徒の姿がある、と思ったら教え子の一人だった。
 春風にコートの裾をなびかせていたエルヴィンは振り返り、こちらに寄ってきた。

「ここで何かしていたのですか?」
「明日の試験に備えて、ちょっと気分転換を。……俺、雲を見るのが好きなんです」
「雲……」

 頭上を見上げると、夕焼け色の空にぽんぽんと浮かぶ雲が。

「……あっ、あれ、机みたいな形をしていますね」
「そうそう、そうやって雲が何の形をしているかを考えるのが好きなんです。一種の精神統一ですね」
「……もしかしてバルコニーで昼寝をしているときも、雲を眺めたりしていましたか?」
「そうですね。ぼーっと見ているとあっという間に時間が経つので」

 エルヴィンはそう言うと、隣に立つディアナの顔をちらっと見てから、視線を落とした。
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