御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
偽り婚の始まり
 都内と近郊に多大なる不動産を所有していて、更に同じ系列企業内には銀行、ホテル、レストランなどを所有している宮野内グループ。その宮野内グループの長男、宮野内 碧維(みやのうち あおい)と私、千石 凜々(せんごく りりこ)は本日から夫婦生活が始まったばかりなのである。

 引っ越しは事前に済ませていて、昨日までは実家に住んでいた。今日から碧維さんが住んでいる高層タワーマンションに一緒に住むことになった。私は左手に光る婚約指輪を見る度に一人でにやけてしまう。

 お互いの両親同士が縁起を気にすることもあり、平日の大安の日に碧唯さんはわざわざ休みを取得してくれた。婚姻届を出しに行くために朝方に実家に迎えに来てくれて、もうすぐ“宮野内凜々子”となる。

「このまま出かけるぞ」
「え、あ、……はい!」

 私はこれから碧唯さんと婚姻届を出しに行く。いつ出しても良いようにと証人欄には私たちのそれぞれの父に記載してもらっていて、バッグの中に忍ばせてある。あとは区役所に提出するのみで、私たちは正式な夫婦となる。

 私の夫、碧維さんは三十二歳。私は二十六歳で碧維さんとは六つ離れている。そもそも私たちは両親同士が決めた契約結婚である。

 碧維さんは宮野内グループ総帥の跡継ぎに一番近い方なんだそうだ。私と碧維さんは全くの知らない関係ではない。碧唯さんは宮野内グループのうちの一社、“宮野内不動産”で勤務している。私は宮野内グループ関連企業の受付係に勤務していて、結婚を機に退職した。私の父が宮野内グループの都市銀行の頭取で、その縁から結婚の話が舞い込んできた。

挙式はお互いの両親の都合で九月中旬に日取りが決定しているので、その前に同居生活をスタートさせたのだ。現在は五月初旬なので、これから打ち合わせをしてもスケジュール的には忙しくなるが、何とか間に合う段取りだ。

「今日の昼食は外で済まそう」
「はい、楽しみにしてます」

 碧唯さんは婚約が決まった時から、私のことを呼び捨てで呼ぶ。私は今までお付き合いした方もいなければ、碧維さんのような全身イケメンとも面識がなく、終始ドキドキしっぱなしである。しかし碧唯さんは綺麗な顔立ちをしながらも氷のように冷たく、無表情で私の前では一切笑わないのだが、私の名前を呼んでくれるだけで幸せを感じている。

 目がまん丸の二重で鼻も標準程度、唇はそんなに厚みはなく、決して美人とは言い難い私とは違い、綺麗な二重、鼻筋の通っている高い鼻、薄い唇が合わさった女顔の美人系イケメンな碧維さん。そして財閥の御曹司というハイスペックな方が、信じ難い話だが今日から私の旦那様なのだ。

「あれ?」

 区役所に行くはずだったが、碧唯さんが運転している車は首都高へ入って行った。私は行き先が区役所とばかり思っていたので、不思議に思って声を出した。

「せっかくの休みだから、とりあえずショッピングモールに行こうと思う」
「そうなんですね」

 碧唯さんは特に雑談もせず、必要なことも言わないタイプなのか……何を考えているのか分からない。

「凜々子が必要だと思うものは遠慮なく購入してくれ」
「ありがとうございます。でも、生活必需品は揃えましたし……特に何もないかもしれません」

 私は碧唯さんが所有している国産のハイブリッド車に乗せられて、大型のショッピングモールまで行くらしい。車内では特に会話はなく、私は絶えず鼓動が早い気がする。信号待ちの時、碧唯さんが私に聞いてくれたのだが、生活必需品も揃っていて特には思いつかなかった。

 碧唯さんの運転する車には、過去に二度ほど乗ったことがある。一度目はお見合い後のデート、二回目は今日の朝に自宅まで迎えに来てもらった。碧唯さんとは婚約をするまでに一度キリしかデートはしていない。ホテルでフレンチディナーを楽しみ、そのままプロポーズをされた。その時の私は何も考えずにプロポーズを受けてしまったのだけれども……。
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