御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
「親のコネの何が悪い? 持って生まれた役得だろうが。まぁ、考えようによっては嫌な奴がいる職場なんて辞めて良かったよな」
「そうですね」
 碧唯さんは会話をしながら手を動かしていたので、私も残りの食器を運ぶ。その間に流し台に置いてあった食器を食器洗浄機に全て入れていた。

「……すみません、結局、碧唯さんと食器洗浄機に助けてもらいました」
 一人暮らしをしていた割には、容量の大きい食器洗浄機だ。もしかすると、私のために用意してくれていたのかもしれない。

「機械が全てやったことだ」
 碧唯さんは悪たれをつきながら、お湯を沸かしはじめる。

「今日買ってきたコーヒーか紅茶を飲む。凜々子は、どちらにする?」
「私は紅茶がいいです」
「分かった。淹れる準備をしとくから、風呂に入ってこい」
 私は食器洗浄機が働いてくれている間に、お言葉に甘えてお風呂に入ることにした。碧唯さんの優しさが身に染みてしまうけれど、流されてはいけない。

 お風呂から上がって碧唯さんが淹れてくれた紅茶を二人で飲んだ後、寝室へと案内された。碧唯は私専用の部屋もドレッサーもデスクも用意してくれていたので、そこに後ほどベッドが配送されるものだと思っていたのだが……。寝室は別室に用意されていた。

「あ、あの……! 入籍はしないのに……し、寝室は何故一緒なのでしょうか?」
 寝室にはクイーンサイズのベッドがひとつしかない。入籍を拒んでおきながら、碧唯さんは一体何を考えているのだろうか?

「世間向けには結婚したことになっているのだから、寝室は別にはできない。だが、無理やりお前を抱くことはしないから安心しろ」
「分かりました」

 安心しろと言われても一緒のベッドに入らなければいけないことが気がかりだ。しかも、誰かに別だと言わない限りは寝室が別なことは知られないと思うのだが……。まぁ、仕方ないか。本当の妻でもない私を碧唯さんの自宅に済ませてくれるのだから大人しく従おう。

「……おやすみ」
「お、おやすみ……なさい」
 碧唯さんは私に背を向けて横になる。私も同じように背を向けて、横向きになる。

 無愛想だけれど、育ちの良い碧唯さんはきちんと挨拶はしてから眠るようだ。私の心の中はぐじゃぐじゃで、明日からどうしたら良いのかと考えてしまう。

 絶対に好きにならないと決めて、偽りの妻だと割り切りたいのに碧唯さんの優しさが邪魔をする。
 碧唯さんは私のことが嫌ならば、他の誰かと浮気をしたりするのだろうか? しかし偽りの妻だから、浮気にはならない?

 考えれば考えるほど、頭の中がパニックになりそう。今夜は眠れそうにない――
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