御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
偽り旦那様の元カノ
 私たちの結婚は、正確に言えば事実婚だ。
 左手の薬指に光る婚約指輪に罪はないが、見つめていると悲しくなってくる。

 碧唯さんは相変わらずに無愛想で口数も少ない。背中合わせで眠ることにも慣れてきた。

 お互いの両親にも入籍をしていないことはバレてはいない。碧唯さんから入籍はしないと言われた翌日、住所を実家からこのマンションに移転届を出した。実家に連絡がいくことがないように税金や保険関係等も含め、生活の基盤となるものは全て、このマンションの住所に変更した。とりあえず入籍をしなくても住所さえ変更になっていれば、両親にはすぐにはバレないだろうから。

 入籍をしていなくとも私たちは表向きは夫婦として振る舞い、時には仲良しアピールもする。
 お互いの両親の元へ足を運び夕食を共にしたりもしている。そんな生活が一ヶ月続いたたある日、事件は起こった。

「凜々子、仕事を辞めて暇を弄ばしているのならば好きに出かけていいんだからな」
 日曜日、夕食を食べながら碧唯さんは対面に座っている私を見ながら提案してきた。

「ありがとうございます。でも、一日はとても短くて……足りないくらいなんです」
 碧唯さんは仕事が忙しく、土日も接待ゴルフなどで家を空けることが多い。家事を済ませた後に一人きりの私は、碧唯さんが少しでも喜んでくれたら良いなと思いネットで料理のレシピを検索している。その他にもベランダでミニ菜園ができないか、などと検索していて、専業主婦まっしぐらなのだ。毎日が楽しくて仕方がない。

 碧唯さんには好かれてないだろうが、私のために生活費を出してくれていることに感謝はしている。

「それならいいけどな。俺に遠慮なく気軽に過ごせ」
「ふふっ、充分に気軽に過ごしてますよ」
 私は碧唯さんの扱いにも慣れてきて、聞いているだけではキツく聞こえる言葉もそうではないと知り、上手く受け答えできるようになった。無愛想だけれども気を遣ってくれているのは、一緒に住み始めてからずっと変わらない。

「来週の土曜日なんだが……凜々子に頼みがある」
 珍しく碧唯さんが頼み事をしてきたが、一体何だろうか? 碧唯さんは話すのを躊躇っているかのように見える。
「どうしました? 私でお役に立つなら何なりとお申し付けください」
 碧唯さんが私に頼みにくくならないように、笑顔で話しかけた。
「実は友達を何人か、自宅に呼びたいのだが……」

「分かりました。来てくれる人数が分かったら教えてくださいね」
 私は碧唯さんの頼みならば何でも聞き入れたいと思う。

 偽りの結婚生活だとしても、一緒にいる限りは碧唯さんにも私生活を楽しんでほしいから。会社でもお荷物だと思われていた私なんかを偽りでも妻に迎えてくれたのだから、自分なりの恩返しはするつもり。

「凜々子、嫌だったら断ってもいいんだぞ? 本当にいいのか?」
「はい、碧唯さんのご友人にもお会いしたいですから。美味しいものを用意できるように頑張りますね」
 私が作れるメニューはたかがしれているかもしれないが、精一杯努力しよう。
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