御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
「うーん、気に入る服がないわ。どれも少女趣味みたいで好きになれないわ」
 戻ってくるとクローゼットから出された洋服がハンガーにかけられたまま、床に散らかっていた。見た瞬間、ゾッとして嫌悪感を抱いたが私は何も言わずにいた。

 私は職場でも着られるようにとオフィスカジュアル系を主に所有していた。オフィスカジュアルが少女趣味だなんて、初めて言われた。そんなにパステルカラーを取り揃えているわけでもないし、首元にふんわりとしたリボンが着いているのも二着くらいなのに。
「しょうがないわね、このワンピースにするわ。あ、一応ブランドなのね」
「これで身体を拭いてください。ベタベタしてシャワー浴びたい時は言ってくださいね」

 私は温めたタオルを手渡して部屋から出て行こうとした時、「ちょっと待って」と呼び止められた。
「貴方……碧唯に愛されてないのね。見れば分かるもの」
「え?」
 図星だからこそ、何も言い返すことはできない。

「親同士が決めた結婚なんて、そんなものよね。私は大学時代の碧唯の元カノなの。付き合ったり別れたりを繰返してる」
 みちるさんは私の目の前で自分のワンピースを脱いでいく。私とはまるで違うスタイルの良い身体が露わになる。

「そう、なんですね……」
「私と碧唯は同級生なの。三十くらいまでは付き合ってたわよ。でも、私に縁談があって別れたんだけどさー」
 三十歳ということは二年前のことで、つい最近だと感じ取れる。私は胸が締め付けられる感覚がした。初対面時に感じた違和感は間違ってなかった。元カノだからこそ、あんなにも馴れ馴れしく話しかけたり、腕を組んでいたのか……。

「碧唯のお母さんって手作り料理が大好きなのよ。付き合ってる時は手作りに飽きたって言ってて、外食とかデリとかばっかりだったの」
 ついこないだ知り合ったばかりの私よりも、長年付き合ってきた、みちるさんの言っていることは正しいのだと思う。本当の碧唯さんは、手作りなんて好きじゃないのね。知らなかった。だから、今日も手作り料理なんて出してほしくなかったんだ。
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