御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
「ただいま、戻りました」
「凜々子! あとから出しに行けばいいと言っただろ!」
 私が玄関のドアを開けたら、碧唯さんが駆け寄って来た。碧唯さんは私に対して、低くてキツイ口調を浴びせる。

「……すみません。でも大切なお洋服についてしまったワインが染みになってしまうと思ったので」
 私は碧唯さんの顔を見ずに真横を通り過ぎ、リビングへと向かう。そのあとを紗奈さんが着いてくる。
「あっ、おかえりなさい! 凜々子さん。クリーニングどうだった?」
 私と紗奈さんがリビングに入ろうとした時、入り口をみちるさんに塞がれた。

「ブランド品を取り扱っているクリーニング店に預けてきましたが、一週間はかかると言われました。申し訳ございません」
 私は深々と頭を下げて謝る。
「そう? まぁ、時間かかっても仕方ないか! 高級ブランドだからさ」
 みちるさんはケラケラと笑いながら、友人たちの輪に戻っていく。

 リビングの入り口側から見渡すと……ケータリングの料理はほぼなくなっていて、食べたあとの器がテーブルには置いてある。ソファー側のテーブルに置かれていた私の料理は一切見当たらず、下げられていた。
 私は自分が惨めすぎて辛くなる。碧唯さんの友人たちが来るからと前日から仕込みを始めた料理を蔑ろにされ、なかったことにされた。

 碧唯さんの偽り妻だとしても、仕打ちがいくら何でもひどすぎる。
 私はリビングに入ることはせず、玄関から外に出ようとした。

「おい、どこに行く……!」
 碧唯さんに腕を掴まれて引き止められた。
「私……なん、て……お邪魔みた、いだか、ら……」
 涙が溢れないように我慢して、震えた声で言い返す。
「料理……も、つく、らなきゃ……良かった」
 私も偽りの妻だと自覚して、張り切らず、余計なことをしなければ良かったんだ。

「凜々子が作ってくれた料理はみんなで完食したんだ。全部美味かった。冷蔵庫に凜々子と紗奈ちゃんの分は残してある」
「え?」

 碧唯さんから意外なことを聞かされて、我に返る。料理は下げられたわけではなく、なくなっただけなの?
「そうだよ、凜々子ちゃん。碧唯と俺で人数分に取り分けて、みんなで美味しくいただきました! 特にキッシュが最高に美味かった! ごちそうさま」
「片岡さん……」
 ケータリングの料理も六名分しかいことに気付いた。きっと私の分はなかったはずなのに、碧唯さんは自分の分を食べずに私のために残しといてくれたらしい。
 初対面なのに、片岡さんと紗奈さんに優しくしてもらえたことにも私は幸せを感じた。
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