御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
「碧唯、こんな地味子の何が好きなの? 目も頭もおかしくなったんじゃない? センス悪っ! 胸糞悪いから帰るわ!」
 みちるさんは勢いよく自分のブランドバッグを持ち上げ、颯爽と去って行く。
「二次会行くよー! 飲み直そー!」
 玄関先でみちるさんが叫んだが、誰も席を立たなかった。その後、みちるさんは玄関のドアを思い切り閉めて部屋から出て行った。

「碧唯、俺たちもスッキリしたよ。ありがとな!」
「いつも、みちるのわがままに振り回されて……彼女とも別れることになったし。本当に迷惑してたんだよ」
 碧唯さんの友人たちも何かと被害に遭っているのか、次々と愚痴が出てくる。

「凜々子ちゃん、私お腹空いちゃった! 手作り料理食べさせてー!」
「はい、食べましょう。美味しいかは分かりませんけども……」
 紗奈さんのお腹から、ぐう~きゅるる……という音が聞こえてきたので、思わず笑ってしまった。

 みちるさんが不在になってから、私は碧唯さんの友人たちとも打ち解けて楽しく過ごした。紗奈さんとは連絡先も交換して、碧唯さんと片岡さん抜きでも会おうねと約束する。
 歓談してたら、あっという間に夕方になり、お祝いの会はお開きになった。

 碧唯さんと片岡さんは中学、高校、大学と同じだったらしく、親友のカテゴリーだ。他の方々は高校の同級生でみんな仲が良いと聞いた。みちるさんは碧唯さんと付き合うようになってから、友人たちにも会わせてと言って男友達を増やしていったらしい。でも、その本来の目的は、男性の中でお姫様扱いされたかったからだと聞いて驚いた。

 みちるさんは有名企業の令嬢で、碧唯さんの友人以外の同級生たちも彼女には気を遣って接していると聞き、何となく分かる気がする。気さくではあるが、自分の思い通りにしたいという気持ちが全面に現れているような気がしたから。

 私は、みんなが帰ってから碧唯さんと二人きりになった時に彼に疑問点を投げかけた。対面で立ちながら話す。
「碧唯さん、先程のことなんですが……」
「あぁ、みちるのことか。迷惑をかけて申し訳ないと思っている。みちるは誘ってなかったが、どこからか情報が漏れてしまい……勝手に押しかけて来てしまった」
「いや、そのことじゃなくて……」
 碧唯さんは、みちるさんがした仕打ちを謝ってきたが、私が聞きたいのはそのことではない。

「みちるとは大学在籍中には別れている。みちるが何か言ってきたかもしれないが、大半が嘘だから信じないでほしい」
 信じたいけれど、信じ難い。
「そう、ですか……」

 私はただ、碧唯さんの気持ちが知りたいだけなのに。
 みちるさんのことをはっきりと縁を切ると言ってくれたことは嬉しかった。けれども、碧唯さんは私とは今後どうしたいのかが不透明で分からない。

 いつまで待てば、入籍してもらえるのかな?
 それとも、私は碧唯さんが愛する人ができるまでのお飾りなの?
 口に出して聞きたいけれど、聞くことなんてできない。現時点で碧唯さんに追い出されてしまったら、私はどうして良いのか分からないから聞かずに我慢する。

「碧唯さん、今日の夕食は外食でもいいですか?」
「凜々子も疲れただろうから、それでいい」
 友人たちが帰宅後に食器の片付けをしながら碧唯さんに問うと、すんなりと受け入れられた。

 私に気遣ってそ言ってくれているのか、本当は手作り料理なんて迷惑なのか……どちらなのだろう? 碧唯さんと片岡さんの二人で私の料理を取り分けたと聞いたけれど、友人向けのパフォーマンスだったのだろうか。

 変に勘ぐって、今まで以上に関係が拗れても嫌だ。私は偽りの妻なのだから、大人しくしていた方が身のためかもしれない。

「片付けが済んだら出かけましょうか」
「何を食べたいか考えておいて」
 私は残りの片付けをしながら、作り笑顔を見せる。碧唯さんもさりげなく手伝いをしてくれていて、非常に助かるのだが……気が引けてしまう。

 碧唯さんのことを何も知らないまま、もちろんその逆も然りで始まった生活。私たちの関係がどうなっていくかなんて、想像できない。
 私は私のために毎日を過ごせば良いのだと思っても、切なさは変わらない。

 みちるさんのことに託けて、今後について話し合いをすれば良かったのだろうか? 話し合いをするにしても怖い。入籍のことみたいに断られたらと思うと……自分からは切り出せない。

 いつの日か、この事実婚ならぬ偽り婚に決着をつけなければならないが、それはいつになるのか――
< 20 / 30 >

この作品をシェア

pagetop