御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
「私は……散々待たされた身です。碧唯さんこそ、本当に入籍するとなったら……怖気付いたのですか?」
 私は碧唯さんの真似をして、嫌味のように言い放つ。
「ははっ、凜々子も言うようになったな。気の強い女も嫌いじゃない」
 碧唯さんは声を出して笑っているけれど……。

「……ですよね。だから、みちるさんがタイプだったんですよね」
 私はつい思ったことを口に出してしまった。みちるさんは私とは正反対の性格で、うじうじせず常に前向きで自分の意見をしっかりと伝えられるタイプだと思う。それに比べて私は……偽り妻だった期間を引きずっている。

「あの時は、みちるのことを何も知らずに好きになっていた。そして中身を知る度に悩ましくなってしまったが、凜々子のことは知る度に好きになっていく」
 碧唯さんは、私の頭に手を伸ばして撫でてくる。
「今は……凜々子に逃げられやしないか冷や冷やしている」

「逃げませんよ、私は」
「どうかな?」
 クスクスと笑いながら私の頭を撫でる手の平はとても優しくて、暖かみがある。

「こんな片想いみたいな気持ちになるなら、最初から入籍して凜々子を俺のものにしておけば良かったな」
「片想い……?」
「そう。何だか片想いをしているみたいに胸が締め付けられる。凜々子が愛おしくて仕方がない」
 私はもう、碧唯さんのものだという自覚があるのに……彼は不安なの?

「私は当初は段階的に入籍して、強引に碧唯さんの妻になるものだと思ってました。その過程で碧唯さんを好きになっていきたいなって……」
 もじもじしながら、小声で伝えた。

「凜々子的には強引なくらいが良かったのか。遠回りしないで、そうすれば良かったんだな。これからは遠慮なく、凜々子を妻として愛したい」
 碧唯さんは手を伸ばしたまま、私の頬に触れる。視線が合い、私はおもわず逸らしてしまった。そのことに対して無反応だった碧唯さんは、無言で食器を下げ始めた。

 もしかして、今ので怒らせてしまった? 私も食事を済ませて、碧唯さんの後を追いかけるように流し台まで食器を運ぶ。
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