御曹司からの愛を過剰摂取したらお別れするのが辛くなります!
 私は先程までのデート気分はなくなり、早く帰宅したいと思う。帰宅しても碧唯さんと顔を合わせなければいけないのは変わらないのだが、早めに夕食を済ませて布団に入って寝てしまいたい。

「碧唯さん、食料品を見たら帰りましょう」
 頬にこぼれた涙を手の甲でグッと拭い、無理やりに笑顔を見せた。
「凜々子も疲れただろうから、夕食はテイクアウトかデリバリーにしよう」

 私の涙は見なかったのか、それとも女性が泣いたくらいでは動じないのか、先程までの話は終わりにされた。碧唯さんは入籍はしたくなかったのだから、話を長引かせたくはないよね。それは分かってはいるけれど……。

「でも、母からなるべく食事は作りなさいと言われていますので……! 少しお待たせしちゃいますが、作らせてください!」
 私は結婚をすると言って実家を出てきた身なのだから、今更引き返せない。実家に出戻りすれば両親にも迷惑がかかるし、碧唯さんのご両親も穏やかな優しい方々なので、余計な心配をさせたくない。

 私としては今後どうなるかなんて分からないのだが、今はただ、碧唯さんにすがるしかないのだ。
「……勝手にしろ」
 碧唯さんは少し黙りこんでから、口を開いた。
「勝手にさせていただきます」
 私は碧唯さんに背を向けて、食料品の販売スペースまで早歩きで出発した。

 何の役にも立てないかもしれないけれど、私にだってプライドはある。碧唯さんに迷惑をかけないならば、偽りの妻として過ごしても良いでしょう? せめて、碧唯さんのお荷物にはならないように妻としての役目はきっちり果たしたい。

 碧唯さんのご両親の希望もあってのことかもしれないが、婚約を申し込んだのは彼なのだから、少しくらい責任を負ってもらいたい。

 私は碧唯さんと過ごせば過ごすほどに惹かれていくかもしれないと思っていた。けれども碧唯さんに入籍拒否をされた今は絶対に好きにならない、と誓う。

「碧唯さんの今日の気分はお肉とお魚、どっちですか?」
 無言のまま、私のあとをついてきた碧唯さんに問う。
「……肉」
「分かりました」

 碧唯さんは細身のタイプだが、肉食なのかもしれない。どんなものが食べたいのか分からないが、碧唯さんはチーズハンバーグのようなこってりが好きなのかもしれない。でも、お昼にカロリーを摂りすぎていると思うので、さっぱり系にしようかな……。
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