久遠の花~blood rose~【完】
「主が何を思い、どうして死を選ぶかなど――貴方には、わかるはずない」
「っ!――――?」
「話し合うことが先決だと、言っておるだろう」
上げようとした叶夜の手は、蓮華によって制された。
「冷静になれなければ、助けに行くことは出来ぬぞ」
「…………ちっ」
渋々ながら、青年を掴んでいた手を放す。
頭を冷やす為か、叶夜はみなから距離をとった。
「――では、続けるとしよう。お前は、この世で生まれ変わるたび、主である美咲の前に現れるということか?」
「えぇ。しかし、いつもは私を呼ぶ力などない。そもそも、過去の記憶を所持するなど――今回の主には、不可解なことが多過ぎる」
「――不可解じゃないよ」
今まで沈黙を貫いていた雅が、そんなことを口にした。
「美咲ちゃんは命華の子どもだし、赤の命華。力なんて、あって当然だよ」
淡々と語る雅に、蓮華は興味ある視線を向ける。
「己のことは知らぬのに、命華については詳しいのだな」
「当たり前。その命華を再現させる為に、こっちの種族は狩られたんだ。ある程度の知識はあるよ」
「まぁ、お前だけが知っていても意味が無い。――二度は言わぬから、しっかり聞け」
より一層引きしまった口調で、蓮華は語り始めた。
「伝承の命華は、先程連れ帰ったシエロだ。しかし、あの伝承にはその前が存在する。シエロ――つまりは伝承の命華よりも前に、【別の赤の命華】が存在した。私が知る話では、その者が初めて、お前たち王華や雑華の異常を治した人物だ。彼女は身体の異常だけでなく、土地の不浄さえも癒したらしい。
そして、フィオーレは命華の総称。と同時に、カミガキでもある。カミガキは、神の垣根と書いて神垣。人の世に転生をした命華を神垣と呼んでいる。一応は巫女の血統から出てくるのが多いが、美咲の場合は例外だ。赤の命華の血を引く美咲は、他よりも力が強いだろう」
「――それ、美咲さんと関係があるんですか?」
静かに、叶夜は質問を口にする。
「美咲さんを助ける為の話をしないなら、ここにいる理由は無い」
立ち上がり、今にも出て行きそうな叶夜に、蓮華はため息をもらした。
「そう急ぐな。もう少し付き合え。そのような性格は、女に好かれぬぞ?」
「…………」
「蓮華さん、茶化さないで進めた方が」
「なんだ、この程度の言葉も我慢ならぬか」
「蓮華さん」
「わかっておる。――あの黒球が、どんなものか知っておるか?」
みなの視線が、蓮華に集中する。しんと静まり返った部屋に、
「あれは――原点だ」
静かに、そんな言葉が告げられた。
「原点……ですか?」
「そうだ。あれは、己という存在がこの世に最初に存在した理由。それを蘇らせるものだ」
「それを思い出したところで、彼の利益になるようなことがあると?」
「その者の原点ならば問題無い。だが、あいつが創り出したモノは歪んでいる。あれは、他者に別の原点を、さも自分の原点かのように植え付けるものだ」
悔しそうに語る蓮華。
しかし、説明をされてもまだ理解が出来ないのか、それがどれだけの危険をはらんでいるのか、上条でもわからないようだった。
「蓮華さん、もう少し詳しく――」
「……伝承の、女」
言葉を発したのは叶夜。
事の重大さを把握したのか、徐々に表情が曇っていく。
「あいつは……その女が欲しいんだ。でも、生まれ変わりを探すのは難しい。だから命華の血縁を探して、殺して、血を凝縮しっ、て――」
頭を抱え、言葉を詰まらせる叶夜。それに代わり、蓮華が話の核心を告げる。
「つまりあいつは、美咲をその命華に仕立て上げるつもりだ」