久遠の花~blood rose~【完】
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誰かが――叫んでる。
その声は、同じ言葉を連呼しているようだ。
一体、なにをしているのか。
ここに在るのは――『 』。
この場所には、何も存在しない。
個や体。物体と言われるものが存在しない、空白で『 』のみが在る場所だというのに。
誰かまだ――叫んでる。
けれど、それももうすぐ聞こえなくなる。
こうして思考を巡らせることも、そろそろ鈍くなってきた。
声の主は、いつまで――…。
――――――――――…
――――――…
―――…
「――――もうっ、これが」
限界だと、息遣いが荒い声が聞こえる。
――この雰囲気は、何?
確か、思考が消えかかって、何も無い場所に在ったはず。
「なんとか存在は留めたけど、中身が……」
――中身?
なんのことを言っているのかと考えれば、徐々に、感覚が芽生え始めてきた。
――思考だけじゃない。
今、ここには思考以外の存在が出来上がりつつあった。
「体温は……うん、少しは戻ってる」
途端、声の主が触れた。そこでようやく、体というモノを実感した。重くて、まだ動かすことはできないけど、【これ】に思考以外の存在が付属したんだというのは理解した。
「美咲ちゃん、聞こえる?」
心配そうな声が、【これ】の様子を窺う。
「美咲ちゃん? 美咲ちゃん?――!」
ようやく、【これ】の意思が体に伝わった。
目蓋を開き、さっきから呼びかける声の主に視線を向ける。
「よ、よかったぁ~。どこも痛くない? 大丈夫?」
視界に映ったのは女性。
淡い緑の瞳からは、涙が溢れ出ていた。
「美咲ちゃん――?」
さっきから言ってるのは、多分【これ】のことなんだろう。
「っ! やっぱり中身が」
それが【これ】の個を表しているのは理解できるけど――実感がわかない。
「貴方は――誰なの?」
誰? と聞かれても。
「これに――記憶はない」
そう答えることしか、できなかった。