久遠の花~blood rose~【完】
/////
目の前にあるのは、気を失った美咲の姿。
首や肩には噛まれた跡。
服は破け、下着が露になった状態だった。
俺が……やった?
ここに至るまでの記憶が無い。契約を交わしたのは覚えてるが、その先は――。
「?――――血が」
口の中が、血の味がする。
確実に……吸ったのは俺だ。
「みさ、き……?」
小刻みに震える手で、首に触れる。
――! よかっ、た。
脈はある。生きていることを確認し、安心した。
今までなら、血が欲しいという欲求だけだったのに……。美咲そのもを、欲してしまったというのか?
「――ようこそこちら側へ~」
棒読みの言葉。聞き覚えのある声に、俺は声がした方を向いた。
「ついに襲っちゃった?」
窓から入ると、ミヤビは近くに来てかがんだ。
「ん? 破いてんの上着だけ? アンタ、着たままでするのがタイプとか?」
くくっ、と嫌な笑いが聞こえる。
……相変わらず、気にくわない性格してやがる。
「貞操は……奪ってない」
しっかりとした記憶は無いが、それはしてないはずだと、願望にも似た思いを口にする。
「へぇ~。我慢したんだ。ま、アンタの服が乱れてないし、そーだろうなとは思った」
言われて、自分の服に目をやる。確かに乱れは無く、ベルトも外していなかった。
「よかったね。アンタ、完全発症にしてはラッキーだよ」
「っ!――――完全、発症」
「そっ。アンタもオレと同類ってこと。悔しい? 今まで散々殺してきた種族と同じになるのは?」
「――――別に」
悔しいとかはない。
ただ、彼女のそばにまともな自分でいられないのではというのが怖い。殺すだけの日々だった自分に戻りはしないかと、嫌な考えが頭を過ってしまう。
「とりあえず、正気があるうちに蓮華さんとこに行け。リヒトさんに知らせた方がいいからな」
後はオレがやっとくと、ミヤビは言う。
「……お前だって、発作があるだろうが」
「しばらくは問題ナシ。ってか、アンタは美咲ちゃんの治療できないだろう?」
「出来ないが、それはお前だって」
「オレにはできるんだよ。エメから教わったし、さっき薬ももらった。アンタも知ってるだろう?」
ミヤビが……エメさんと知り合い?
疑問に思うオレをよそに、ミヤビはオレを立たせると、外へ追いやっていく。
「ほら、これを割ればあっちに繋がるってさ」
小瓶を渡され、背中を強く押される。
発症したことを考えれば、早くあちらにいるリヒトさんを頼るのは当然のこと。ミヤビの言うことは最もだが――。
「お前、美咲さんに何もしないだろうな?」
発症からくる欲情がなくても、男として普通に、この状態の彼女を見て理性を失わないかと心配になった。
「絶対……手出しするなよ?」
「しつっこい! さっさと行く!!」
「っん、の!?」
豪快に背中を蹴られ、部屋から落とされた。
急いで戻れば、窓はもう閉められており、ざっと勢いよく、カーテンを閉められた。
「あいつ~……。本当に、大丈夫なんだろうな?」
後ろ髪を引かれる思いだが、まずはやるべきことをしなければならない。再び発症する前に、蓮華さんの元へ向かった。