久遠の花~blood rose~【完】
◇◆◇◆◇
叶夜に連れられたのは、見知らぬ場所。
周りは竹で囲まれていて、目の前には、とても大きな家と、それに見合った頑丈な門が構えられていた。門の両側に立つ人も、これまた頑丈そうな見た目だ。
「すみません。蓮華さんに、美咲さんを連れて来たとお伝え下さい」
話しかければ、その人はふっと、姿を消してしまった。しばらくすると、その人が現れると同時に門が開かれた。
叶夜に手を引かれ、中へと進んで行く。
様相は、叶夜の家に似ている。こっちの方が、大きさはかなり大きいけど。
「――何かあったのか?」
道の先で待っていたのは、昨夜の女性だった。
「リヒトさんは、まだいますよね? 美咲さんの体のことでお話が」
この人が、エメさんが言っていた蓮華さんか。
とても女性らしい。でも、何処か謎めいて――惹きつけられる雰囲気を感じる。
「連れて来るから、二人はこの部屋で待っていろ」
案内された部屋に入ると、私たちは座りながら、リヒトさんという人を待った。
「――お久しぶりです」
やって来た男性は、やわらかな笑みで挨拶をした。
「それで――日向さんの体に、何か変化でも?」
「見た目には無いのですが、身体能力が、以前より高くなっているんです。高い場所から平気で下りるし、一応、知らせておいた方がいいと思って」
「では診察をしますので、キョーヤは退室を」
言われて、叶夜は部屋を出て行った。
何をするのかと思えば、リヒトさんはまず、改めて挨拶をした。
「今のアナタにとっては、初めまして、ですよね。――私は上条理人と言います。いつも、先生と呼ばれていました」
よろしくお願いしますねと手を差し出され、自分も手を差し出した。
「診察って、自分は何をすれば――?」
「手を握るだけで分りますので、このままで結構です。あとのことは、蓮華さんとも相談をするので、キョーヤとここで待っていて下さいね」
程なくして、先生は手を離した。
今のところ、異常は見当たらないらしい。
「多少の身体能力向上は、命華の力によるものでしょう」
「エメさんからも聞きましたが、今の自分には、命華としての力があるんですか?」
「今の段階では、血の変化があるようですね。――昨夜、キョーヤの発症を抑えたのでしょう?」
頷けば、先生は安堵の表情を浮かべていた。
「おそらく、覚醒が近いのでしょう。力を持つ種族には、必ず覚醒期というものがあります。人で言うところの、成人にあたるものだと思って下さい。
現段階では、普通の人よりも質がいいようですが、量を必要とするのは変わりません。なので、血を与える際は気を付けて下さい」
自分の血が貴重となれば、優先的に使うのは――。
「叶夜と雅。二人に使った方がよさそうですね」
「無理をしてはいけませんよ? あくまでも、負担のかからない程度に。
――それから、覚醒をすれば見た目に変化が現れます。その時、自分で力を制御出来ない場合がありますので――これを。指輪同様、それも付けておいて下さい」
渡されたのは、透明な球体のネックレス。その中央には、青い石が浮かんでいた。
「それら二つは、力が目覚めた際、扱いやすいようにしてくれるはずです」
言われて早速、ネックレスを首に付けた。制服の上からは見えないので、学校でも付けていられそうだ。
「赤の命華は、言葉を操ります。力の強さは個人によりますが、発したことが現実になる、と思っていただければいいかと」
言葉が現実に――。
ただ発するだけで、どんなことでも起こるというのだろうか?
聞けば、先生もあまり詳しくは知らないらしい。
上条先生自身も、多少言葉による力を備えていると言うが、本来は詠唱を必要とする。命華のように単語、短文で【何かを起こす】となると、予め道具を準備しなければならないようだ。
「私の場合、一つのモノに特化した言葉を持っています。視界に入った特定のモノを消すこと。段取りを省いて出来るよう、私はこのような飾りを」
首から下げられていたのは、透明な球体。その中には、文字が書かれた、記号のようなものが入っていた。
「これを持てば、自分も同じことが?」
「出来ますが、これは私ように創っているので。――しかし、これをすることはお勧め出来ません。覚醒前というのは、非常に不安定な時期です。体もですが、心も刺激を受けやすいですからね」
心――だが、今の自分には。
「エメさんが言っていました。〝感情が乏しい今なら、負担をかけずに終わらせることが出来るかもしれない〟と。今のうちに、やれることはありますか?」
「では、そのことも相談してきましょう。しばらく、ここで待っていて下さい。――キョーヤ、もういいですよ」
廊下に出ていた叶夜を招き入れると、先生は部屋を出て行った。
そばに来るなり、叶夜は体の心配をしてきた。問題が無かったと伝えれば、安堵の表情を浮かべていた。