久遠の花~blood rose~【完】
――こんな時は、テレビでも見て気を紛らわそう。お気に入りのハーブティーをいれソファーに腰掛けた。
しばらくそうしていると……薬が効いてきたせいもあってか、少しずつ、睡魔が襲ってくる。この時の感覚は、ふわふわと浮いているようで好き。
寝ているような。
起きてるような。
意識が曖昧になる心地に、このまま身を委ねてもいいかな、なんて気になってくる。
ガサッ……。
ガサッ……。
もう少しで眠る、というところで、妙な音が聞こえる。
「…………上から?」
耳をすますと、その音は二階から聞こえているようで。
ゆっくり体を起こすと、私は静かに廊下へ出て、様子をうかがった。
ガサッ……。
ガサッ……。
先程ようもはっきり、音が耳に届く。今、家には私しかいない。泥棒じゃないかと、そんな不安が頭を過った。
念のため……逃げた方がいい、よね。なにかあってからでは遅いと、私は素足のまま外へ出た。何度か振り返って見るも、今のところ、誰かが後を追ってくる気配は無い。
怪しい物音は聞こえず、耳に入るのは――静かな虫の音だけ。
いつもなら穏やかな雰囲気に感じられるのに、今ではそれも、不安を煽(あお)る要素にしかならない。
気のせい、かなぁ……?
あまりに普通過ぎて。
いつもと同じ過ぎて。
平和な夜が、ただただ過ぎていく。勘違いだったのか、と考え始めた瞬間――それが、間違いだということに気付かされた。
「■■■、……ッ■■」
奇妙な声と共に、黒い得体のしれないモノが、突如目の前に存在していた。見上げるほど大きいソレは、人の形をしてるものの、目や鼻などない、影のような存在。発する音声は聞き取れず、なにを言ってるのかわからなかった。
「――■■■?」
!? 今……笑っ、た?
いや、実際には笑ってない。ただ感覚として、笑ってるんじゃないかと、そんな感じが読み取れたに過ぎない。
「――メイ、か」
今度は、微かに聞き取れた言葉。
その声はとても低く……耳障りな音だった。
に、にげ、なきゃ。
から、だ――動いてよ!?
ようやく思考が追いついたものの、まだ体は追いついてくれなくて。必死に逃げようと、何度も何度も足に命令し続けた。