久遠の花~blood rose~【完】
「――メイ、カ」
影の声が耳に入った途端、動きかけた体は、完全に停止した。
自由を奪われた体は、どんなに命令しても動くことはなく――意識は、深い深い底へと落ちていった。
――――――――…
―――――…
――…
目を開けると、そこには見慣れない景色が広がっていた。
空が薄っすらとピンク色で……月は、青白く光っている。今までに見たことがない空に、私はしばらく、目を奪われていた。
『――メ、イッ』
どこからか、音が聞こえる。それはとても近い気がするし、とても遠くかもしれない。不思議な感覚を覚える音に、私は神経を傾けた。
『――メイッ、カ』
聞こえたのは、“メイカ”という単語。
あの影が発していた言葉とは違うけど、声の質感は、なんだか似ている気がする。近くにまたいるのかと見渡すも、それらしきものは見当たらなかった。
……ここにいても、しょうがない。
ひとまず、声のする方へ歩くことにした。
周りは木々があるばかりで、他にはなにも無い。家も見当たらず、このまま歩いていて、誰かに会えるのかと不安が広がっていく。
ギェー! ギェー!
妙に不気味な声が、辺り一面に響き渡る。
途端、さっきまでの声も聞こえなくなり、どこを目指せばいいか、いよいよわからなくなってきた。
「……帰れるの、かな」
ここまでくると、弱音の一つも言いたくなる。それでも、歩いていればどこかに着くんじゃないかという思いで歩き続けた。――次第に、痛みを訴える足。素足のまま歩き続けたせいで、足には幾つもの切り傷ができていく。歩くたびに痛みは増し、それは体だけでなく、心をも疲弊(ひへい)させた。
「だれ、か……。誰かっ、……いませんか!?」
私の声だけが、辺り一面に響く。それに答える声も無いまま……ただ空しく、声は消えていった。
「なんで……こんな目に合うの?」
口にした途端、頬に、暖かいものが伝う。手で拭って見れば、それが涙だということを理解した。
「ははっ……。なんか、情けない」
もう、歩くのも疲れた。その場に座り込み、私はまだ溢れ出る涙を拭った。
……夢なら、早く覚めてよ。心が、淋しさで押し潰される。