久遠の花~blood rose~【完】
『――いいよ。力、使っても』
「っ! 本当――?」
『でも、長い間はダメ。ワタシは、まだ覚醒の歳を迎えてない。だから、力はたくさん使えない』
「わかった。これから――あなたは、自分の中に?」
『ワタシは、アナタの力そのもの。覚醒をし、力を受け入れれば、ワタシはアナタ。そして、アナタはワタシ。――だから、会うのはこれっきり』
途端、フェリスの体が徐々に消え始める。これで本当におしまいだとわかった自分は、思わず声をかけた。
「フェリス――ありがとう」
声が届いたのか、フェリスは消える前に、笑みを見せてくれた。
――しばらくして、左手が石から離れる。その場に倒れてしまったものの、先程までの不快な感覚とは違い、今は、心地いい感覚が体を包んでいた。
「本当に――お前は無茶をする」
額に、誰かの手が触れる。
もうフェリスはいない。今ここにいるのは――?
「だが、おかげで会うことが出来た」
声は、いつも聞いている彼の声。だとすると――今目の前に見えているこの者がそうなのだろうか?
「時間が無い。今から言うことを、必ず覚えておけ」
なにを言うのかと思えば、彼は真剣な眼差しで自分を見つめる。
「お前は強制的に覚醒した。だから、今までどおりこの世界に繋げるのは難しい」
「――なら、自分も」
日向美咲のように、消えてしまうというのか?
それはダメだ。
消えるなら、やり遂げてからでないと。
「そうならない為に、力は使い過ぎるな。残る時間は三日だ」
「なぜ――正確な日数を?」
「それが決まりだからな。世界を創り、滅びる日数。オレたちは、昔からそれに縛られているからな」
「自分とあなたは――同じ?」
「オレはただ、お前をこの世界に繋いでいる者。それだけ知っていればいい。――力のこと、忘れるなよ?」
囁くと、彼も姿を消した。
おそらく、自分の中に戻り繋いでくれているんだろう。
フェリスと彼。この二人が在るから、自分はまだ存在できる。
「残り――三日」
それまでに必ず――終わらせる。
*****
ディオスの前から立ち去ったはずのエメだったが、こちらの世界にリヒトたちが来ることを感じ取り、再び、ディオスの元へ来ていた。
「――――どうした?」
「これから、箱を戻す為に三人が来る。だから、貴方は手下を引き連れて、何処か行ってて下さい」
今ここで、彼らと鉢合わせるのはまずい。だから早く動くようにと、エメは伝えに戻っていた。
「これを手下と呼ぶか。――連れて行けるのは、一部の影のみだ。それ以外は、お前たちでどうにかしろ」
「わかってますよ。――箱を戻したら、貴方はどうすんですか?」
「お前こそ。――もはや、肩腕はこちらのモノではないくせに」
「おあいにくさま。これでも生きることは諦めていませんので」
「ほう。いい度胸をしているではないか」
「ここにいたら、嫌でもそーいう性格になりますよ」
「随分と言うようになったものだな。――箱は、洞窟の奥に運べ。この場から離さねば、あの時と同じことが繰り返される」
「空は黒をまとい、光も届かぬ世界。
大地は枯れ、生き物が死にゆく世界。
前者が三日、後者も三日。そして――最後は、白い光が埋め尽くす世界、ですね」
「現段階で、空は微かに色づき始めている。まだ時期ではないが、要因になるものは排除するにこしたことはない」
「そろそろ、三人がこの世界に来るはずです。――お願いしますよ、レフィナド」
「お前の方こそ、影なんぞに殺されるなよ――エメ」
二人の未来は決まっている。だからだろうか。二人には他の者とは違う信頼感がある。
お互いが最善を尽くせるよう、残りの時間を願いながら、それぞれは動いた。