久遠の花~blood rose~【完】
――暗い。
――冷たい。
心細い気持ちが、どんどん大きくなっていく。
「――!? ――――!」
どこからか、音が聞こえる。立ち上がり辺りを見回していれば――それが次第に、人の声だというのがわかった。
「――美咲! 美咲!」
声の主が、私の名前を呼んでる。何度も呼びかける声に、幻聴なんじゃないかと耳を疑っていれば、
「!?――美咲っ!」
大きく名前を呼ばれたと同時。背後から突然、腕を掴まれた。振り向くと――そこには、叶夜君の姿があった。
「ケガはないか!?」
「っ、……」
うまく言葉が出てくれなくて、代わりに私は、何度も頷いてそれに答えた。
誰かに会えたという思いで、一度は止まりかけた涙が、とめどなく溢れてくる。
「無事で……よかった」
呟くと、叶夜君はあっと言う間に私を抱き寄せた。いつもなら逃げようと思うけど、今だけは、この温かさを感じたい。だから自然と、私も抱きつくような体勢になっていた。
「悪い……気付くのが遅れた」
「だ、だいじょうぶっ。――こうして、気づいてくれました、から」
「ケガがなくて何よりだが……なんで君はここにいる?」
「それは……」
私はゆっくり、これまでのことを話した。変な影のことや、私のことを「メイカ」と呼んでいた声のことを。
「……やはり君は」
そう口にすると、叶夜君は黙ったまま私を見つめる。まじまじと見られるのは恥ずかしいのに、あまりにも真剣に見つめられているせいか、目をそらせずにいた。
青い瞳がとても綺麗で……それと同じくらい整った顔に、少しずつ魅了されてしまったのかもしれない。
「あ、のう……叶夜、君?」
「……悪い。とにかく、今はここから去ろう」
そう言うと、叶夜君は当たり前のように私を抱えた。
「?! お、下ろし、て……」
「この方が早い。それに――」
目と鼻の先。月神君の顔が、徐々に近付く。そして、悪戯っぽく微笑んだと思えば――額に、温かな感触を覚えた。それがなんなのかを理解した途端、体中が一気に、熱を帯びていく。
「こうやって、すぐ充電出来る」
悪びれる様子もなく、叶夜君はさらっと、そんなことを言ってのけた。
「な、なんでこんな……!」
「だから充電だ。口にしないだけいいと思ってくれ」
「!? そ、そんなことしたら……叩きます!」
「安心しろ。それはしないと約束する。――しっかり掴まれよ?」
急に真剣な口調で言う叶夜君に、私は少し間を置いてから、その言葉に頷いた。
「怖かったら、目は閉じておけ」
しっかり掴まったのを確認すると、叶夜君は、空を目指し飛び上がった。あまりの高さに、一度は目を閉じたものの……気になり始めた私は、少しだけ、目を開けて見ることにした。
「…………綺麗」
目に映ったのは、どこまでも続く緑。木々自体が光っているんじゃないかって思えるくらい、とても色鮮やかに見えた。
そして、下にいる時よりも近い星空。手を伸ばせば届きそうと言うのは、今のような状態を言うんじゃないかと思う。
「――慣れてきたのか?」
「は、はい。……まだ、ちょっと怖いですけど」
「じっくり見せたいが、機会があればな」
そう言って、叶夜君は微笑んだ。
ここまで高いのは慣れないけど、またこうやって眺めることができるのは、ちょっと楽しみだった。