久遠の花~blood rose~【完】

 *****

 ディオスの前から、矢のような物が放たれる。それが当たることは無かったが、気分を害されたディオスは、それを放ったであろう人物を睨みつけた。



「元人間が、私に敵うと思うのか?」



 現れたのは木葉。まっすぐにディオスを見据え、無表情のまま、次の攻撃に備える。

「お前では敵わぬ。たかが数百年しか生きておらぬくせに、私に挑むなど、命知らずもいいとこだ」

「笑っていられるのは今のうちです。貴方たちには出来なくとも、人には出来ることがあるというのを、身をもって体験するといい」

 その言葉に、ディオスは口元を緩めた。
 楽しんでいるのか、ゆっくりと、木葉との距離を縮めていく。



「――炎よ」



 ぽつり、木葉は呟く。
 そして弓を放つ構えをし――神経を、指先へと集中させる。

「ここら一体、火の海にでもするつもりか?」

「安心して下さい。狙うのは、貴方のみですから」

 言い終わると同時。木葉は、ディオスに向けて弓を射る。それは回りに炎を纏い、ディオスの周りで無数の矢に分かれ、まるで生き物のように飛んでいた。

「ほう。お前、元はただの人間ではなかったか。――〝鬼〟と化しても、他の者とは違う、という訳だな」

 木葉の正体がわかったディオスは、周りで飛び交う火矢の一部を掴む。それをそのまま握りつぶし、己の力を木葉へ見せ付けた。

「この程度か……つまらぬな。やはり、元人間では勝てぬということだ」

 笑みを浮かべるディオスに、それでも木葉は、冷静に言葉を返す。

「私は、あくまでも護衛です。あの方の為なら……捨て駒にでもなりますよ」

「その身を捧げる、と? ふんっ。馬鹿なヤツだ」

 目にも留らぬ速さで、ディオスは距離を縮める。手を伸ばし木葉に触れようとした途端――体が、言うことを利かない。



「――ようやく効きましたか」



 周りを見れば、火の玉に混じり、何かが浮遊している。よく見ればそれは蝶。どうやら、まかれる鱗紛(りんぷん)が不調の原因らしい。



「シエロ様からきお聞きました。――貴方は、私と同じだと」



「――――そうか」



 ゆっくり、地面に腰を下ろす。
 そこにいたのは、殺気が感じられないディオス――いや、レフィナドが現れていた。

「何か――話があるのか?」

「しいて言うなら――本当に同じなのかを確かめたかった、と言ったところでしょう」

 木葉は、シエロからその正体を聞いていた。それと同時に、彼は自分と同じだということを。

「同じ、か。何をもって、同じだと判断する」

「貴方の目的です。貴方がここまでするのは、何の為ですか?」

 レフィナドは、これまでの王華の長がしてきたように、自分の魂を分けていた。
 半分だけ生まれ変わるということは、半分は他人となる。全く同じではないものの、自分の半身とも呼べる存在が、蓮華のそばにいたことに胸を撫でおろしていた。

「ふっ。そんなこと、わざわざ口にすることではない」

 立ち上がり、まっすぐ木葉を見つめる。



「同じなら――早く行け」



 歩き出すレフィナド。
 真横に来た時、木葉は静かに告げる。



「本当に――同じですね」



 歩き出す木葉。
 振り向くことなく、それぞれが目指す場所へ足を速めて行った。
< 163 / 208 >

この作品をシェア

pagetop