久遠の花~blood rose~【完】
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木葉さんに聞いた案内で、自分は今、華鬼が創るという花畑にいた。そこには、丸い球体の石碑が置かれている。
木葉さん曰く、ここは華鬼の長以外、立ち入ってはいけない場所らしい。
『その場所には、命華の里が在った場所に通じる石碑があるはずです』
そこへ行けば、あちらの世界に行くことが容易だと言っていた。
木葉さんから貰った小瓶。おそらく、蓮華さんが先生に渡していた物と同じだろう。これを石碑に当てれば――。
球体に近付くにつれ、心臓が大きく脈打ちだす。
右手に小瓶を持ち、勢いよく、石碑目がけて投げた。弾けると、球体の周りにこことは違う景色が映る。森の中に、黒くてどろどろした液体が地を這っている光景に、体は即座に反応した。
飛び込めば、そこはもう先程までいた世界とは違う空気に包まれていた。
空は薄っすら赤黒く。
淀んだ雰囲気が、現状の危うさを物語っていた。
『どうか――終わらせて』
頭に響く声。それがなんなのか、自分はもう気付いている。その為には、何をすべきなのかも。
まだ、シエロさんがなにかした様子は見られない。やるなら今しかないと、黒い液体の大元であろう場所に向かって走った。――すると、近くに見知った気配を感じた。
「――――雅!」
「!? み、美咲ちゃん? なんでここにっ」
「今はどうでもいい。――エメさん、どうしたんですか?」
聞けば、あの箱に宿る力によって体を奪われていたらしい。
触れれば、脈はハッキリとしている。まだ意識は戻っていないけど、エメさん自体の魂に傷が付いた様子はない。
「どこも傷は負ってない。しばらくしたら、目を覚ますはずです」
「よかったぁ……」
しっかりとエメさんを抱きしめ、雅は安堵の声をもらした。
「雅、先生と叶夜はどこに?」
「リヒトさんは影の処理してるけど、キョーヤは……よく、わからない」
「わからないって」
「気が付いたら、目の前から消えてた。リヒトさんが言うには――多分、あの中だって」
指し示す方を見れば、その先にあるのは黒い液体の塊。
「アイツ、声がするって言ってたんだ。でも、そんな声オレたちには聞こえなかった。エメがおかしくなったり、アイツにだけ聞こえたってことは、二人に共通することが原因だろうから――」
「箱に関係することしかない、ってことですか?」
「おそらくね」
本当に叶夜があの中にいるとしたら……今の私では助けられない。
「雅――石碑はどこ?」
夢で聞いたことを、実行するしかない。
「えっ、ここから北に数分だけど。美咲ちゃんの足じゃあ――」
「大丈夫」
「ちょっ! 美咲ちゃん!?」
何度も叫ぶ雅をよそに、自分は石碑へと向かった。確かに、先生たちに比べれば遅い。でも――。
「――――駆ける」
足にのみ、神経を集中する。
ただ石碑に向かって行くことのみを頭に浮かべ、その言葉を繰り返し走り続けた。
体は、あきらかに変化している。
思ったよりも早く石碑に辿り着くなり、左手を付け、そこにいるであろう人物に問う。