久遠の花~blood rose~【完】

 ◇◆◇◆◇

 木葉さんに聞いた案内で、自分は今、華鬼が創るという花畑にいた。そこには、丸い球体の石碑が置かれている。
 木葉さん曰く、ここは華鬼の長以外、立ち入ってはいけない場所らしい。



『その場所には、命華の里が在った場所に通じる石碑があるはずです』



 そこへ行けば、あちらの世界に行くことが容易だと言っていた。
 木葉さんから貰った小瓶。おそらく、蓮華さんが先生に渡していた物と同じだろう。これを石碑に当てれば――。
 球体に近付くにつれ、心臓が大きく脈打ちだす。
 右手に小瓶を持ち、勢いよく、石碑目がけて投げた。弾けると、球体の周りにこことは違う景色が映る。森の中に、黒くてどろどろした液体が地を這っている光景に、体は即座に反応した。
 飛び込めば、そこはもう先程までいた世界とは違う空気に包まれていた。
 空は薄っすら赤黒く。
 淀んだ雰囲気が、現状の危うさを物語っていた。



『どうか――終わらせて』



 頭に響く声。それがなんなのか、自分はもう気付いている。その為には、何をすべきなのかも。
 まだ、シエロさんがなにかした様子は見られない。やるなら今しかないと、黒い液体の大元であろう場所に向かって走った。――すると、近くに見知った気配を感じた。

「――――雅!」

「!? み、美咲ちゃん? なんでここにっ」

「今はどうでもいい。――エメさん、どうしたんですか?」

 聞けば、あの箱に宿る力によって体を奪われていたらしい。
 触れれば、脈はハッキリとしている。まだ意識は戻っていないけど、エメさん自体の魂に傷が付いた様子はない。

「どこも傷は負ってない。しばらくしたら、目を覚ますはずです」

「よかったぁ……」

 しっかりとエメさんを抱きしめ、雅は安堵の声をもらした。

「雅、先生と叶夜はどこに?」

「リヒトさんは影の処理してるけど、キョーヤは……よく、わからない」

「わからないって」

「気が付いたら、目の前から消えてた。リヒトさんが言うには――多分、あの中だって」

 指し示す方を見れば、その先にあるのは黒い液体の塊。

「アイツ、声がするって言ってたんだ。でも、そんな声オレたちには聞こえなかった。エメがおかしくなったり、アイツにだけ聞こえたってことは、二人に共通することが原因だろうから――」

「箱に関係することしかない、ってことですか?」

「おそらくね」

 本当に叶夜があの中にいるとしたら……今の私では助けられない。



「雅――石碑はどこ?」



 夢で聞いたことを、実行するしかない。

「えっ、ここから北に数分だけど。美咲ちゃんの足じゃあ――」

「大丈夫」

「ちょっ! 美咲ちゃん!?」

 何度も叫ぶ雅をよそに、自分は石碑へと向かった。確かに、先生たちに比べれば遅い。でも――。



「――――駆ける」



 足にのみ、神経を集中する。
 ただ石碑に向かって行くことのみを頭に浮かべ、その言葉を繰り返し走り続けた。
 体は、あきらかに変化している。
 思ったよりも早く石碑に辿り着くなり、左手を付け、そこにいるであろう人物に問う。
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