久遠の花~blood rose~【完】

「石碑に触れれば、治めることができると聞いた。体を繋ぐことはいらない。全部使い切っても構わないから!」

 じわり、左手に熱が帯びる。すると目の前に、温かなオレンジ色の光が現れた。



『ヨウヤク――アラワレタ』



 光の中から聞こえる声。声の主は見えないものの、構わず、自分はどうしたらいいのかと問いかけた。

『コタエハカンタン。シゼント――ナガレコムカラ』

 自然と流れ込む?
 それは、頭に直接浮かんでくるということだろうか。

『マズハオモイダサナキャ。――あなたの、存在理由』

 声が、クリアに響く。
 存在理由なんて、最初から知っている。そんなのを今更知ったところで――。

『確かにあなたは、自分を終わらせる為の存在。でも――その為には、もっと深く知らなきゃ』

「深く――知る?」

 呟けば、目の前に様々な景色が駆け巡った。
 その光景は、どれも自分が【死】ぬ時のもの。

『ただ死ぬだけなら、わざわざこんな手間を取る必要は無い』

「それは……痕跡を残さない為に」

『違う。あなたの魂は――壊れてる。だから半分しか無い』

 半分だけ――?

『フィオーレであるあなたは願った。でも、それには代償が伴う。それが魂の損傷だった。傷を負った魂では、まともに生きることが出来ない。だから半分はずっと遠く――死のそばで、修復を待っていた。生きている半分が死ぬこと。それが、あなたを起こすきっかけ』

「半分しかないなら、今ある魂を使い切っても……」

 もしかしたら、足りないんじゃないかと過った。傷により半分しかないなら、力だって半分ということになる。



『だから――ワタシが在る』



「?――それは、どういう」



 ドクッ、と心臓が大きく高鳴る。
 嫌な感覚じゃない。
 例えるならそう。これから楽しいことでも起こるような、高揚感溢れる気分。

『ワタシが有れば――自然と、理解出来る』

 光が、体にまとわりつく。
 思わず強張れば、何もしないからと、耳元で声がした。

『ここには――あなたに無いモノが在る』

「自分には、無いもの」

『ここには――【体】が在る』

 胸が、じわじわと温かくなっていく。
 こんな気分は……初めてかもしれない。
 まだ、体中が高揚する感覚はあるのに、それでいて落ち着く。静と動。相反する感覚が、体の中を巡っている。

『ここには――フィオーレが残した、体の記憶が在る。それがあれば、あなたはあなたを理解出来る』

 途端、一際大きく心臓が跳ね上がった。
 思わず地面に膝を付けば、左手は石碑から離れ、今まであった光も消えてしまっていた。



「あぅ―――あぁ…」



 思い……出した。
 これは、自分が招いた結果だ。



「好きに……ならなければ」



 あの時の自分は、一人の男性に好意を抱いていた。少しでも共にいたいと願ったことが、間違いの始まりだったんだ。
 箱から溢れる黒い液体。あれに叶夜が囚われたのも納得がいく。
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