久遠の花~blood rose~【完】
開 花 式(前)
創造と破壊は表裏一体。
新しいモノを創るには、それまであったモノを壊すことも必要だ。
――まずはカルム。
お前たちには、血を糧に生きるようになってもらおう。それも、生き血でなければならないように。
幾ら代わりを作ろうと無駄なこと。清らかなモノが穢れれば、そう簡単には戻ることはできないということを、身をもって感じるといい。
「――血を飲まずに生きる方法がある」
囁けば、そいつは懇願した。
「体を――捧げろ」
戸惑ったものの、そいつは意を決し、申し出を受け入れた。――だが、あまりいい器とは言えない。それならば創ればいいと、華鬼と王華の血で、次の器となる者を創った。華鬼の長は、箱を封じている。その血があれば今度こそ……。
――次は人間。
互いを信じる心に、疑いを植えつけよう。それも、近しい者に特に現れるように。
幾ら許しを乞おうと無駄なこと。違う力を持つと言うだけで、群れから外される孤独を味わうがいい。
人間は、我以上に残酷な生き物だ。
生きる為でなく、快楽の為に同法を殺す。特に、女の扱いが酷い。女とは子孫、次なる道を生み出し、更なる高みへと行ける存在だというのに。
それを……人間どもは忘れてしまった。
*****
深い森の中に、遥か昔に忘れ去られた古城がある。外観は古いが、中は未だに、手入れをされているかのような装い。奥へと進めば、そこには、ディオスの屋敷で見たような光景があった。
大広間の中央に浮かぶ黒球。それは、美咲が飛び込んだ箱が肥大した状態だった。
ニヤリ、怪しく口元を歪めるディオス。そこにはもう、レフィナドの痕跡は感じられない。
――黒球が、ゆっくりとその形状を崩し始める。
中から現れた女性。その者は、飛びこんだはずの美咲とは違う容姿をしていた。髪は輝く白銀をし、瞳は、左右違う色を宿している。
「あぁ……その瞳だ。求める存在の眼差し」
黒球から滴り落ちた液体が、女性の体にまとわりつく。それは次第に形を成し、ドレスに変化した。
「さぁ――次へ進もう」
「――――そうですね」
二人は、塔の上を目指す。
それぞれの思惑は違えど、女性は確実に、ディオスが望んだ存在に近付いていた。