久遠の花~blood rose~【完】



「――ここから帰ろう」



 行き着いたのは、小さな湖。周りには小さな花が咲いていて、雪のように白い色をしている。
話しによると、この湖の水面に映る月に飛び込めば帰れるらしい。それが、ここと私がいた所を結ぶ道になるとか。改めて、やっぱりここは違う場所なんだと実感した。

「えっと……。そろそろ、下ろしてほしいんですけど」

 未だ、私を抱えたままの叶夜君。でも叶夜君は、私の言葉なんて耳に入らず、何か違うことに集中しているようだった。

「叶夜、君……?」

「……悪いな。まだ、離すわけにはいけない」

 真っすぐ前を見つめる叶夜君。
 同じ方向へ視線を向ければ、そこには、黒いなにかがうごめいている。湖を挟んで反対側にあるそれがなんなのか、ここからではよくわからない。

「……何匹か、いるな」

 周りを見渡し、険しい表情を浮かべる叶夜君。それを見て私は、今の状況はよくないんだと察した。

「逃げれ、ますか?」

「――いや。その必要はなさそうだ」

「危なく、ないんですか?」

「今のところは。あれは、湖の周りをたださ迷っているだけのようだからな」

 それを聞き、私はほっと胸を撫で下ろした。これで安全に帰れると、再び前に視線を向ければ――徐々に、黒いものの姿がはっきりと見えてきて、

「――――!?」

 それが、私を襲ったモノと同じだと、気付いてしまった。
 途端、震え始める体。思わずぎゅっとしがみついていれば、心配そうな声で、叶夜君は様子をうかがう。

「どうかしたのか?」

「っ……あれ、が」

 私を襲った影だと、小さく呟く。
 すると叶夜君は、警戒の色を強め、周りにいる影を見定め始めた。

「――悪意は無い、か」

 しばらくして聞こえたのは、そんな言葉。
 本当に大丈夫なのかと心配していれば、

「――俺を信じろ」

 余裕のある、そんな声が聞こえた。
 信じろ、か――。まだ不安はあったけど、ここまで自信を持って言われたら、信じないわけにはいかないよね。
 無言で頷き、さっきよりもしっかり、叶夜君にしがみつきく。それを確認すると、叶夜君は一気に、湖の中央まで飛び跳ねた。

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